第六章
第6章
<戦争から生みだされたロシア革命>
親父 話をまた1960年代後半に戻しましょう。で、当時の60年代後半の全共闘運動の背景に、階層的な差異が影を落としていた、全共闘はどちらかと言えば恵まれたお坊ちゃまの運動であった。もちろん、そうでもない学生も少なからずいたんだよ、実際には。
息子 苦学生ね。
親父 苦学生もいた。奨学金を貰ってようやく大学へ行った人もね。だから、さっきから言っていることはあくまで一般的な傾向だよ。
息子 それでも貧困層と比べたらいいよね。
息子 でも、学生運動をやっていたお坊ちゃんたちには、貧困層を救おうというような理念はなかったの。システムを攻撃するだけで?
親父 あったよ、それはもちろんあった。
息子 でも、彼らが民青という貧困層から反撃されたっていうのも、また皮肉な結果だったよね。
親父 まあ、そういうもんだよ。
息子 面白いですね、面白すぎる。
親父 まあ、歴史はそういうふうに動くもんだよ。だって、ロシア革命のボリシェヴィキのメンバーなんて、みんなロシアの貴族か数少ない中産階級の出身だよ。それは当たり前だよ。少なくともある程度の教育を受けて、文字が読めて、生活に余裕がなければ、革命運動なんてできないんだからさ。
息子 でも文字通り金もなく知識もない連中が、暴動とか農民一揆に走るっていうことはありそうじゃない。たとえ文字が読めなくても、今の中国で起こっている暴動みたいな形の運動が。
親父 中産階級の知識を持った連中が、いま君が言ったような運動と結びついたとき、本格的な革命運動になるんだよね。ロシア革命でいうと、革命を成し遂げたグループは、元々一握りのインテリの運動に過ぎなかった。革命運動をやったのは、ボリシェヴィキ、メンシェヴィキ、社会革命党などという小さな政治結社なんだよね。そういう小結社が、ある一瞬に貧しい農民たちの心を掴んじゃったわけだよ。それがロシア革命だった。かつてはツアーリに忠実だったロシアの農民の心をツアーリからボルシェビーキに向かわせたのは、対ドイツ戦の軍事的敗北なんだよ、第一次大戦におけるロシアの敗北は悲惨だった。ロシアの技術的後進性、軍隊の前近代的性格、そして例によってニコライ皇帝を筆頭とする政治と軍の指導者たちの凡庸さ、これらが相まって、ロシア軍はドイツ軍に敗北に次ぐ敗北を喫するわけだよ。ロシア軍はドイツ軍と闘っても歯が立たない、戦えば必ず負けてばっかりなのよ。第一次世界大戦の死者のリストを見れば分かるけど、参戦国中一番死者が多いのがロシア、協商国側で次に多いのがフランス、次いでイギリス。中欧同盟側では、トルコ、ドイツ、オーストリアの順番だよ。第二次大戦のソ連はもっと沢山の死者を出していることは、昨日話したよね。
ロシアはドイツのとの戦争に負け続けた。貴族出身の将校たちの命令に黙って従っていたんじゃ、兵隊は殺される一方だった。兵隊はみな農民出身者だよ。戦場に投入された1部隊が、一回の会戦でその90%が戦死させるなんてことがしばしば起こった。
息子 ドイツの戦車で殺されたの?
親父 当時の東部戦線には戦車は出現していないよ。西部戦線で出現したのは1917年だったけど。ドイツ軍の砲兵技術の前にロシア軍は大敗を続けたんだよ。
息子 キャノンね。
親 西部戦線のフランス軍、イギリス軍、ドイツ軍が採用していた常識的な集中砲撃技術、三角観測による間接射撃で、ロシア兵がばたばた殺された。
息子 まあロシアの技術は圧倒的に遅れているからね、今のロシア製のマシンもそうだけど。
親父 当時のロシア軍の知識水準が低すぎた。ロシア軍の将校の命令に従っていてはただ殺されるだけだということに兵隊たちが気づき始め、命令に従わない兵士や脱走兵が増えていった。ロシア兵のことを、レーニンは「軍服を着た兵士たち」って言ったんだけど、そういう農民出身の兵隊が脱走したり遊軍化したりした。ボルシェビーキはそういう兵士たちを組織したんだよ。
息子 格差社会だから、一番下の農民が兵隊になるのね。
親父 そう。当時のロシア人の大多数は小作農民で、彼らが徴兵されて戦場にいくわけだよね。彼らがこんな戦争をやらせる皇帝の政府に従っていては殺されるだけだと思い始めたときに、「平和、土地、パン」っていうスローガンを打ち出したのがレーニンのボルシェビーキだった。このスローガンでレーニンは権力取ったんだよ。
息子 負ける戦争はこれ以上続けない。戦争やってもしょうがないということか。
親父 平和とはドイツへの降伏。土地は小作農が一番欲していたもの、地主の追放。パンは食糧の確保。これで政権を取った。だから一握りのインテリの運動が、歴史の瞬間に存在した一瞬の極限的な事態の中で、小作農というロシア人の大多数の気持ちをつかんで、いっぺんに政権を取ったんだよ。そういうことはありうるんだよ。そのダイナミズムの積み重ねで、歴史というやつは動いてきたんだから。
<歴史は地殻変動的に動く、黒人の場合>
アメリカの黒人差別問題の歴史でそういう人を探すと、アンクル・トムズ・キャビンを書いたストウ夫人だね。彼女が書いたアンクル・トムズ・キャビンで、歴史は動いたわけだよね。
息子 知らない。
親父 いわゆる南北戦争の原因となったとされる本だよ、南北戦争っていうのは、この1冊の本から起ったって言って過言ではないんだよ。アメリカの黒人奴隷の悲惨さを書いた。基調は良心的な白人の黒人に対する非常に情緒的な同情心なんだけど、この本が売れたし、白人たちの心を動かした。
息子 南北戦争前にその本が書かれて、南北戦争が起った。北軍が勝って奴隷解放宣言は出たけれど、しかし黒人に対する人種差別は続いて、1960年代になってマーチン・ルーサー・キングが出てきて公民権運動が起きて、最終的に黒人は法的に解放された。でも、格差社会そのものは続いているし、黒人は法的には奴隷ではないにしても、実質的に奴隷的な立場になっている。黒人は社会の底辺に居る奴隷だよ、実質的に。
親父 いや、そこの辺は、俺はあんたとちょっと考え方が違うんだけど、確かに実質的にはそうかもしれない。だけど、100年前とはやはり違う。
息子 やっと黒人が大統領候補になって変わってきたかなとは思うけど。でも、オバマみたいな黒人はホンの一握りだよ。
親父 いや、一握りだけどゼロではないんだよ。そこが大事だよ。
息子 ゼロではないけど、ほとんどの黒人が社会の1番下の構成員
親父 だって1968年以前は完全なゼロなんだから。
息子 でもほとんどの人は奴隷ではないけど、最貧困層だよ。
親父 だけど、現在の黒人は、選挙権は持っているし、白人と一緒のバスに乗れるし、一部には金を持っている連中も出てきた。要するに歴史っていうのはゆっくりと進んでいるから、黒人、人種差別の問題とかそういうことに関して言えば。スロウ・バット・ステディ(ゆっくりとしかし確実に)、そしてある時期には一瞬に進むんだよ、あんたの指摘するようななかなか変わらないという側面は一面の事実だとは思うけどね。
息子 少しずつ、ほんの少しだけど改善している
親父 ほんの少しだけどいるよ、ハーバード卒業して年収10万ドル以上取っている黒人はいるはずだよ。
息子 黒人人口の1%以下だね。
親父 1%パーセント以下でもいるんだよ。いることが重要なんだよ。
息子 でも実質的に見りゃ変わってない。残りの99%以上は同じなんだから、貧困層なんだから。
親父 たとえば、ニューヨークのハーレムでビジネスを成功させている黒人もいるわけだろう。ハーレムのギャングがクスリを売って黒人を搾取する、そういうやつもいるでしょう。で、デンゼルワシントンが映画で大統領の役をやったりするわけだよ。オバマだって本当に大統領になる可能性は非常に高いよ。少しずつ変わって、一瞬にして変わる。歴史はそういうもんだよ。地震と同じだよ。地殻の歪みが少しずつ貯まって、ある日突然大地震になって現れるわけだよね。
<大学受験の内申書を書いてもらえなかった親父の奥さん>
親父 5年や10年だと分からないけど、50年で見ると確実に変わっている。婦人参政権だってさ、高々まだ100年経つか経たないかでしょう、婦人参政権が承認されてから。
息子 でも、やっぱり女性議員の数は少なすぎる。
親父 日本で女性参政権が認められたのは、1946年の総選挙が最初だろ。まだ60年しか経っていない。
息子 女性で責任ある地位にいる人は少ないし、未だにほとんどの人、というか多くの女性が派遣とかパートだしね。
親父 でも、前よりは正社員が増えているだろう。大手企業で課長職に就く女性も増えているでしょ。
息子 まあそうだね、ましになってはいる
親父 まあ、今の日本で大手企業の課長になることにどんな意味があるのって言われたらそれはまたそれで別の問題だけど、課長になったり部長になったり、役員になったりしている数は、やっぱり増えているわけよ。で、あんたのお母さんの時代なんて、ひどいもんだった。前にあんたに話したことがあるかもしれんけど、あんたのお母さんは高校を卒業して、国立大学のインドネシア語科に入りたかったんだよ。しかし、高校の教師が内申書を書いてくれなかったんだよ。
息子 今だったら人権問題。
親父 当時だって、人権問題だよ。高校の教師がいったらしいよ。女が外国語を勉強するなら、英語かフランス語かまあドイツ語まで。インドネシア語なんて女がやる言葉じゃないって。で、現役受験のときに担任の教師が内申書を書いてくれなかったんだよ。だから、あんたのお母さんは最初の受験に落っこちたんだよ。内申書なくて国立大学受かるわけがないよね。で、ご存じの通り、あんたのお母さんは意地っ張りで、その性格で俺はめちゃめちゃ苦労したんだけど、それでもインドネシア語科を受けるって意地を張った。その結果、やむなく1年浪人したんだよ、あんたのお母さんは。
息子 すごいね、今だったら裁判沙汰だよ
親父 そうだよ、裁判沙汰だよ。一浪目でようやく学校が内申書を書いてくれて受かった。
息子 面白いね
親父 その高校の教師の論理では、インドネシア語のようなアジアの言葉は、男子生徒が勉強して、商社などに就職するための道具として学ぶ言葉だ。それを女が学んで、男子の就職の機会を奪うのはけしからん。だから、内申書を書かないというんだよ。で、卒業後も大変だったんだよ。4年生の国立大学出ても、就職先なんて無いわけだよ。まああるとすれば教師の道くらいしかなかった。民間企業なんて自宅通学のOLしか雇わなかった。国家公務員がキャリア職員に女性の採用を始めたばかりの頃で、キャリアの役人になった人が何人かいる程度だよ。指を折って数を数えられるぐらい。
息子 なるほどね。でも中小企業にはIさんのような面白い変なおっさんがいるから、お袋も職場が得られた。
親父 まあ中小企業というより、零細個人企業だよ。
息子 ワンマン企業。まあそういうおかげでそういう面白い人たちの出逢いがあったわけだ。アッハッハッっていう、そういう締め出されちゃうおかげで。
親父 だから要するに、女性の問題だって、本当に女が普通に働けるようになったのなんて、ごくごく最近の話であって、
息子 そういう意味ではすごい進歩なんだ、最近の
親父 20年ぐらいのもんだよ。男女均等雇用法ってのができたのが20年ぐらい前だと思うけどね。だから黒人問題だって、南北戦争で奴隷解放が実現して、公民権運動が盛んに行われて公民権法が制定されるまで100年掛かっているわけでしょう。例のキングの有名な演説があって、やがてルーサー・キングが暗殺された。それが1968年だった。ロバートケネディ、JFKが64年に暗殺されて68年にロバートケネディとマーチン・ルーサー・キングが暗殺されているはずだよね、俺の記憶ではね。
息子 女で暗殺された人はあまりいないようだね。
親父 まあオバマだって、暗殺の危険はあるとは思うけどね。しかし、歴史は一昔で変わるよ。
息子 ひと昔前とは、一世代前ということか。
親父 そうそう、要するにあんたが見てるのは、リアルタイムの目の前のことを見てるから、それ、俺はキミより30年ぐらい長く生きているわけだから、一世代前を知っているわけだ。リアルタイムを見ていると同時に、30年前、40年前ぐらいを見ているわけだから、あんたが見ているのがこの15年位だとすれば、この10年ではあまり見られないように思えるような大きな変化が、40年とか50年とかいうスパンで見ると、やっぱり起きているんだよ。
<息子 現代はチャンスがいっぱいの格差社会>
息子 しかし、現在の日本は、おじさんと若者との格差がすさまじいぞ。年収300万の派遣と300万無いのか、200万ぐらいか。200万の派遣と社長は1億だから、まあたったの50倍ぐらいの差で、
親父 社長は1億ってどこの会社だよ
息子 うっ、うちの会社だよ。見たんだよ、給与の原簿を
親父 どうなんだろうね。俺はそのこと自体はそう大きな問題だとは思わないんだけどね。息子 年収200万円の派遣社員と1億円の社長の間には、実際そんだけの付加価値の差があることも事実なんだよね。一応派遣の人は、ミーティング、面接、アレンジのセットアップ程度のことしかできないわけだから。経理上の数字の計算とかは全くできないから、それはしょうがないんだけど
親父 それはその通りなんだろうね。だから、加藤智宏もそうなんだろうけど、その位置から這い上がれないってことが問題なんだよね。這い上がるチャンスがない、這いあがれるはずがないと思って、這い上がろうとしない。特に、一度外れちゃうと、もうチャンスがないと思ってしまうということが一番の問題なのかな。金がなくてチャンスがないと思い込んでしまう、あるいは、思い込ませてしまうことが問題だと思う。
息子 金無くたって図書館があるんだから、仕事行ったあと、もしくは週末、猛烈に本読めば、大学なんて行かなくなったいくらでも学べるんだよ。もしくは本屋で立ち読みするとか。
親父 俺もそう思う。
息子 本屋で立ち読み、本屋で立ち読み。だから俺だってチャンスが無いとは言わせないから。
親父 今の時代にもね。
息子 特に、今はインターネットがあるんだからね。今の日本で一番頭がよく情報が入ってくる人たち、例えば大前研一さんでも孫正義さんでもいいけど、彼らがアクセスできる情報とほとんど同じ情報を得られる。現代は、そういう格差、その機会均等が存在しないという意味での格差は存在しない。機会均等じゃないという言い訳はもうできない時代なのかなと思う。
親父 確かに、そうだね。
息子 例えば、色んな教材だって売っているんだからさ、そんなに高くないけどさ、英語とか、経理とか、IT技術とかの教材だね。留学しなくても機会は沢山ある。実際、我々の近い親戚のFさんはそういう形で這い上がってきたでしょう。自分でプログラミングと英語を勉強して、ゼロから勉強して這い上がって、高給取りのSE(システムエンジニア)になったわけだよね。
親父 コンピュータ技術者だよね。
息子 でも、コンピュータ用語は英語だよ。中卒でABCも分かんないから。本当に苦労して勉強したと言っていた。から30歳くらいからキャリアアップしたわけだよ、恐ろしいスピードでキャリアアップしたわけだよ。
親父 Fさんはモチベーションも高かったし、ベースの能力もあった。そしてチャンスがあった。病院に就職して、その病院がコンピュータ化を始めたときに、彼が自ら立候補してその仕事を始めた。その結果、SEとして高給が取れるまでに至った。ベースの能力とチャンス、この2つだよね。
息子 30歳になってから英語を勉強したというのは、とても信じられないよ。
親父 Fさんは最終的に1千万円プレーヤーになったわけでしょう。ほんとうそれはすごいことだと思うんだよね。中学校卒業の男が30年後に1千万円プレーヤーになったっていうのは、すごいことだよね。
息子 親父が若かった時代に、共産党と反共産党的左翼の間の思想上の対立の背景には、社会的な格差社会の対立があった。俺の周りにおける、その典型が親父とFさんであったという理解でいいのかな?
親父 大ざっぱにいうと、そういうことだね。このことは1960年代を理解するための一つのバックグラウンドとしてキチンと言っておかないと、フェアさを欠くかなと思うんだよね。フェアっていうのもおかしいけど、一種の階層的な背景、高度成長時代真っ只中の時代における日本の階層配置みたいなのが、1960年代の騒然とした時代の拝啓に厳然としてあったわけだよ。
<必要なのは国家のリストラ>
息子 格差社会というのは、小泉政権時代のアメリカ型社会の導入ということになっているけどどうなのかな?
親父 大学入学を希望する者が大学に入れるという意味で、大学全入時代と言われるようになったのは1980年代だった。そういう意味で、1960年代から80年代の20年間ぐらいで、いわゆる1億総中流社会が実現しちゃっているわけだよね。それがバブルの崩壊に対応する形で、ゆっくりと崩れてきた。それが現状だと思うけどね。
息子 小泉の言いたかったことは、そのキャピタリストの一員として俺はよく分かるんだよ。お金を稼げる人にもっと儲けさせて、それによってセーフティネットに送る金を増やそうということだね。しかし、金を稼げる人に儲けさせる前に経済がダメになり、セーフティネットの財源のないまま貧困層だけが大量に出てきて、大問題になっている。それが俺の現状認識なんだよ。結局、政治が金を無駄に使ってしまった。だから、税収が不足する一方で、けっきょく医療も崩壊、年金も崩壊、全て公的資金システムが崩壊しているっていうのが現状だよね。
親父 要するに、パブリックセクターが税金をおいしく食べちゃっているんだよね。
息子 そう、だから小泉首相は、民間を活性化させるには格差社会的システムを導入したんだけど、政府をリストラしなかった。だから、彼の構想は実現せず、格差の痛みだけが残されたっていうことだね。
親父 だから、まず政府のリストラをしないと、何も始まらないわけだよ。ことは非常に簡単で、要するに公務員が給料を取りすぎているんだよね、公務員の数が多すぎる。仕事が無いのに高給を取っている。このセクターの生産性が低すぎて、成長の足を引っ張っているんだよね。
息子 むしろ、彼らは積極的に天下り先を作っているよ。IT化、デジタル化というのは、人を減らして生産性を向上させるためにやるんだけど、パブリックセクターはデジタル政府化を旗印に天下り団体を作っている。デジタル化しても生産性は向上しないんだよ。
親父 公務員の数と人件費を半減して、パブリックセクターの運用コストを4分の1にすることが、日本の経済成長の前提だと思うよ。財政のうち人件費が半分とすれば、それを半減すればよいんだよね、
息子 民間企業の経理をやっている立場からすれば、コストの8割が広義の人件費だからね。それを4分の1にすれば60%コストが下がる。
親父 そんなに人件費比率が高いかね?
息子 俺は企業の会計をやっているからね。企業コストの7割は人件費です。残りの2割が設備の減価償却コストなどだね。
親父 でもそれは会社によって違うでしょう。
息子 会社によって人件費比率は違うけど、まあ、コストの7割くらいのものだよ。なんで、民間企業がリストラするかというと、人件費がコストの根源だからだよ。その他に大きなコストはキャップエックスだけだね。
親父 キャップエックスっていうのは?
息子 キャピタル・エクスベンディチャー
親父 あー設備投資だね
息子 もちろん不景気のときは設備投資を控えるけど、それを止めるのは当たり前であってね。でも、キャップエックスを止めるだけじゃ足りないから、やっぱり人件費も削らなければならない。簡単に計算するとね、設備投資を5年償却だとして、売上と同じ程度の設備投資額があると仮定すると、その投資額の2割を償却する。だからやっぱり1億円の売上があったら2千万ぐらいは投資しているわけだね。でも1億円の売上があって、経費が9割で、経費の8割は人件費なんだから、設備投資を削るより、人件費を削減する効果のほうが大きいわけだよ。常識的にいえば、コストが売上の二倍になりつつある現在の財政では、人件費を大幅に削減するしかないんだよね。
親父 ある役所なり行政法人があるとすると、そこがたとえば年間2千億の予算を使っていると、そこの中の人件費が5割だとするよね。その予算を、たとえば1割減らすとする。そうすると、官庁用語ではマミズ(真水)っていうんだけど、予算マイナス人件費なんだよ。ここが本当に使われているコストなんだよね。その役所が現実に支出しているお金だね。ねっ。そうすると、予算が1割減ると、5割の人件費に手をつけないと、マミズ部分は2割減ることになるんだよ。君がいうように、8割が人件費だと仮定すると、予算1割減だと、真水部分が半減することになる。この20年間、財政で景気を刺激するといい続けてきたけれども、その大半がパブリックセクターの人件費に消えて行っただけだったというのが真実でしょう。
人間に手をつけないことが、今の公務員システムの最大の問題だよね。どう考えたって、学校で給食を作っているおばちゃんが、700万だとか800万だとかの給料を取ってるのはおかしいだろう。
息子 オリジン弁当の従業員やパートのおばさんが、年収700万円取っていたら、オリジン弁当は潰れちゃいます。
親父 人ごとのように言っているけど、現実に給食のおばちゃんが年収700万円以上取っているんだよ。だから、パブリックセクターが潰れているんだよ。
息子 公務員だからという理由で、本当にそれだけ貰っているの?
親父 そうだよ。俺の友達の奥さんが東京の小金井市で給食のおばさんをやっていて、700万以上の年収なんだよ。
息子 ひどいね。年収に加えて、さらに手厚い年金などの社会保障補償費を付けているから実際にはもっと掛かるんだよね。
息子 給食費を払わないっていうモンスターペアレントがいるっていうけど、それって公務員制度への逆襲じゃないの。
親父 そういう側面もあると思うんだよ。
息子 最近の親にはモラルが無いっていうけど、政府のほうがもっとモラルがないっていう話だね。
<公務員セクターとメディアの一体的キャンペーン>
親父 最近、さしたる事情がないのに、119番で救急車を呼んだり、110番するやつが増えているのは、どうもそういう背景があるんじゃないかと思ってるのね、俺は。
息子 どうせお前らは無駄に金使ってるんだから、納税者のおしゃべりの相手ぐらいしろよっていうことだ。こんな平和な日本で、大した仕事もないのに、なんで警察官や消防隊員に高い給料払わなきゃいけないんだということか。
親父 背景にはそれがあると思う。
息子 びっくりしたんだけど、2007年というのが、凶悪事件の件数から見ると、戦後1番平和な年だったんだそうだね。しかし、そのような事実は大きく報道されない。若者のモラルが低下して凶悪犯罪が増えているから、警察官の増員が必要みたいな報道ばかりが目につく。完全な情報操作だよ。
親父 警察とメディアが組んだ、キャンペーンなんだね。
息子 でしょう。社会が平和なのに警察の増員が必要だということは、不要なものを売りつけているわけじゃない。民間企業の世界だったら、公正取引委員会に摘発されるような営業をしているわけだよ。警備保障会社がそんな恐いコマーシャルを流したら、たちまち公正取引委員会に摘発されるよ。俺としては、凶悪犯罪がどんどん増えているような報道の仕方のほうが、よっぽど犯罪的報道だと思うんだけどさ。
親父 それはそういうふうにしたほうが警察は予算が増えるわけだし、人員も増えるわけだよな。
息子 警察としては、アルソックとかに顧客を取られちゃうのがいやだからっていうことなのか。
親父 俺、警察官の友達がいないから彼らの給料は知らないけどさ。
息子 目茶苦茶高いよ。俺の元妻の父ちゃんは警察官だったんだけど、リタイアするときに一階級を上げられて、退職金と年金のランクが最後にボーンと上がって、なんかウハウハ生活だったていうのを聞いたよ。
親父 だから、そこがどうにもならないんだよね。
息子 そんなことは民間企業だったらやれないから、妥当な額で我慢してくれっていう話になるんだけど、公務員の場合は、税金だからまあいいや、俺の金じゃないからっていうことになるからさ。
親父 公務員セクターは、少なくとも今のところ経営破綻はしてない。その大きな背景は、やっぱりメディアがやっぱり公務員セクター側に立っていることだよね。
息子 消費者庁を作るなんていうのは、なんか悪いジョークみたいだよね。消費者は安くて品質のよいものとサービスを望んでいるのに、消費者庁を作って企業に報告義務だの業界団体作りなどをさせて、結局コスト引き上げ要因を作るだけでしょう。それをメディアは大歓迎しているからね。けっきょく、メディアだって政府側だから、どうにもならんということだね。
親父 まあ、NHKとか朝日新聞とか読売新聞とかテレビ各社を含めて、完全にいわゆるその寡占産業であり、独占産業であり、規制産業だからね。既得権益の塊だからね。民間企業だとは言っているけれども、マスメディアは、実際上は準ハブリックセクターなんだよね。
息子 ライブドアの堀江にフジテレビを買われそうになったとき、メディアは総連合を組んで叩き、さらに検察まで動員してホリエモンを叩き潰した。政府とメディアが、よってたかってライブドアを潰したからね。あの時の報道は、中国並みの情報統制だったと思うよ。
親父 俺がここで指摘したかったことはどういうことかっていうと、例えばフジテレビの社員であること、朝日新聞の社員であること、NHKの職員である人たちは、単純にいえば給料が高くて、この高い給料を維持したいと思っている。そのためには、現状の規制を維持する必要があるから、政府と密着していなければならない。政府からの特権保護を失っては、メディアの高いポジションと高い給料を維持できない。それが彼らの一種の共通認識になっている。だから、ホリエモンみたいな新規参入者は叩き潰さなければならないとおうことになるんだね。あんたが言うとおり。
息子 まだ、NHKより民放のほうが競争がある分だけ良心的なのか?
親父 いやそれは甘い。だって放送は免許制なんだからね。政府が潰そうと思えばいくらでもつぶせるし、局の数は増えないんだから。民放だって全面的な規制下あるんだよ。民放が良心的だっていうのは、まるで甘いと思う。
息子 まあそうか、放送局はぼろ儲けしてきたから、政府に陰で金を回しきただろうけど。
親父 ただ、新聞にしろ、放送にしろ、これから先にどうなるかは大問題だよ。テレビは今のまま生き残れるかとか、新聞が今のまま生き残れるかっていうのはね。インターネットとの関係で、新聞はそろそろ終り始めておると思うしね。
息子 もう新聞は終わったね。
親父 まあ、テレビもおそらく10年もたてば終わっていくだろうと、俺は思うけれどもね。また、話が60年代からずれたね。
<全共闘が戦ったシステムとは?>
息子 ずれたけど、まあ、かつての格差社会が政治に反映していたということは、新鮮な認識だったよ。
親父 そのことはキチンと言っておききたかった。で、その次に何を言いたかったか。俺が言いたかったことは、三派全学連と全共闘との関係、というかその間にある大きな差なんだよ。それまでの政治運動と比べて、全共闘って明らかに違ったんだよ。単純にいえば社会主義運動、コミュニズム運動じゃないんだよ。そこを俺は指摘したかった。
息子 反体制派っていうことかな。
親父 昨日も言ったことなんけど、全共闘はアメリカにおけるベトナム反戦運動と、本質的に同じなんだよ、だってアメリカにおけるベトナム反戦運動は、コミュニストによってリードされたわけじゃないでしょう。
息子 単にベトナム戦争反対、ベトナムからアメリカ軍は引き揚げろってことだったね、彼らの主張は。
親父 それと同じ。もちろん、全共闘運動はコミュニストと称するセクトによって主導はされたのだけれども、全共闘のベースはコミュニズムじゃなかったってことだよ。
息子 思想は、反政府だけど、コミュニストじゃない。
親父 反政府っていうか、単純化していえば、悪いものは悪いっていうことだよね。
息子 正義感?
親父 正しいことは正しい、間違っていることはやめようということ。もう一度さっきの言葉を使えば、システムに対する異議申し立てだったんだよ。
息子 悪かったのは、ベトナム戦争と他に何が悪かったの? 大学の教育?
親父 大学だよ。大学教育というよりも大学のシステムだよね。
息子 それは、さっき言っていた理不尽な退学処分があったから?
親父 その退学処分にシンボライズされるようなシステムということかな、まあ文学部とか経済学部、いわゆる文科系は必ずしもそうではないけれども、今でも、例えば工学部なんかでは、教授が、誰をどの会社に就職させるっていう権利を持っている。昔からそうなんだけど。この先生は、たとえば三菱グループのメーカーに強いとか、そういうことがあったし、今でも多かれ少なかれある。
息子 就職活動の自由が、じつは学生には無いってこと?
親父 少なくとも工学部の学生には、就職の自由は学生に無かったんだから、当時は。
息子 それはどういうシステムになっているの、学校側に企業がキックバックを払っているわけじゃないでしょう。
親父 違うと思うけどね。三菱重工なら三菱重工でも、日産なら日産でもいいんだけど、要するに、たとえば東大の工学部の機械、機械科っていうのがあるじゃない。機械の卒業生が、たとえば毎年50人いるとしようか。それが○○社に何人、XX社に何人って割り当てがあったりする。
息子 もう枠が決まっちゃっているんだ。
親父 そういう割り当てがあるわけだよ。
息子 どういう意図で教授はそれをやっているの?研究費を寄付してもらっている企業に卒業生を割り当てるわけ?
親父 たとえばそういうのもあるだろうね。人脈というのか、何十年前の教授から受け継がれている枠とかね。俺の大学時代の友だちのH君、彼は機械科を出て、有力な重厚長大メーカーに就職したんだけど、それも教授の割り当てで就職しているわけだよ。この割り当てに逆らったら、少なくとも日本の超大手企業には就職できない。君と同じくらいの年齢の若い友人のBさんっているでしょう。彼は、旧帝国大学の理学部の卒業生なんだけど、教授が割り振った就職先を断って、一年間カナダに語学留学をした。就職氷河期ということもあったんだけど、留学先から日本に帰ってきたら就職先がまったくなかった。教授の怒りに触れたから、大学は一切紹介しなかったということだよ。
息子 今は、そういう意味ではすごく変わったと思うよ。就職して2、3年で辞める若者っていうことが話題になっているんだから。確かに、教授が就職先を割当てているのかもしれないけれど、やだよってやめちゃうやつも多いよ。転職しちゃうよ。元カノのMちゃんだって、H大学から経団連会長を出している会社に就職したけど、2年で辞めて次のIT系の会社に行った。
親父 Mちゃんの担当教授は、経団連会長を出している会社の人事部から強烈な厭味を言われたことは間違いないね。取ってやったのに何だよ、2年で辞めやがってという意味の嫌味をね。それで教授から学生への縛りがますます強くなったんじゃないの?
息子 でも今は、みんながやっているからいいんじゃないの。
親父 けっこう多いのかね?でも、たとえばトヨタを、トヨタを2年で辞めるっていうのは、まずいないだろう。
息子 いるから、問題になっているんじゃないのかな。
親父 たと。例えばメガバンクに就職して、2年で辞めるとかっていうのはありそうだなって思うんだけど。だけどどうだろう、ホンダを2年で辞めるとか、ソニーを3年で辞めるとかいうのは、あまりないんじゃないの。
息子 そうじゃないよ。そういうトップ企業だってやめちゃう若者が増えているんだよ。それは、労働市場が成熟してきたという意味で健全なことだよ。根性が無くなったということもあるんだけどね。
親父 確かに、それは健全だと思うよ。22歳とか24歳とか就職先を選ぶチャンスが人生で1回しかないより、圧倒的に健全だと思うよ。
息子 まあトヨタみたいな代表的日本企業が良い会社なのかどうか、それが問題だと思うけどね。過労死はしているは、下請けには厳しいしね。トヨタの下請け上場企業なんか、たとえ部長クラスであっても、トヨタの平社員に平身低頭だよ。これも俺のガールフレンド人脈からの話。
親父 トヨタっていうのは、日本的経営と称されているある一本道をとことん突き詰めたら、良くも悪しくもこうなりましたっていうような会社だからね。
息子 秋葉原の加藤君も、トヨタの下請けで働いていたわけだよね。
親父 トヨタの下請けの下請けで働く派遣っていうことだね。
息子 まあトヨタが安く車を作れる理由っていうのも、そういうところにあるんだろうけどね。
<プロジェクトXというナツメロ>
親父 ちょっと話がずれるかもしれないけど、今の日本が抱えている問題っていうのは、トヨタとかシャープとか、会社の名前はともかくとして、東芝でもソニーでもいいけれども、こういうたぐいの会社が栄えることが、日本が栄えることだっていう認識なんだと思うんだね。1960年代、70年代、80年代に栄えた会社が、21世紀の、現在においても栄えなければならないっていうのが、日本人を縛っている呪縛なんだよね。「物づくり大国・日本」と自賛しつつね。
息子 でも、確かにモノ作りは日本人の得意分野ではあるからね。トヨタの秋葉原加藤君のレベルになると蟹工船になっちゃうかもしれないけど。
親父 いや、ちょっと違うと思うんだよ。日本人の得意分野とかいうより、日本人の保守性なんだと思うんだよ。高度成長時代からの産業構造を変えるのが恐いんだよ。
息子 そのサービス産業にとかにね。
親父 情報産業であったり、サービス産業であったり、ソフトウェア産業であったり、内需指向型産業であったりね。小売業だったり、レストランチェーンだったりね。モノづくりから脱却する方向に変わらなきゃいけないのに変えられない。株式市場だって、依然として円安を歓迎する。輸出企業が儲かることが日本経済がよくなることだということになっている。円安だと日経平均が上がるって、そんな馬鹿な話ないんだよ、30年前のストーリーで生きているわけだよ。
息子 そういう意味では、確かに転換しきれてないね。
モノ作りが日本人に向いているとかいうのは、はっきり言って一つのイデオロギーだからね。
息子 でも、確かに日本人のきめの細かいサービスは素晴らしいよ。
親父 そうだよ。きめの細かいサービスというのかな、あるいはカスタマオリエンテッドなビジネスっていうのは、これは日本人のいいところだと思うよ、俺も大いにそう思うけど、それがなぜモノ作りじゃなきゃいけないのかっていうことだよ。ソフトウェアだって、小売業だって、アニメやゲームだっていいわけでしょう。きめ細かいサービスはいいけど、それをモノ作りだけに短絡させることが問題なんだよ。
息子 確かにそうかもしれない。
親父 だから俺NHKの例の「プロジェクトX」ね、この番組っていうのは、そのモノ作りのナツメロを延々と語っているわけだよね。ナツメロを情緒的に持ち上げて語ることによって、21世紀も同じことをやれよって言っておるんだよ。今でもやればまだできるぞ、トヨタもパナソニックもやっているぞ、モノ作り頑張れって言っているのに等しいんだよね。時代錯誤もいいところだよ。常識的に経済のサイクルを考えれば、今の日本がモノ作りだけで生きてけるはずがないよね。情報テクノロジーであるとか、あるいは広い意味での娯楽産業であるとか、そういう方向にいかなくて何があるのよと思うわけね。
息子 まあアニメとか映画は結構いいんじゃない。ハリウッドほど金を掛けられないけど。
親父 だけど、日本映画のレベルはハリウッドとは比べ物にならないよ。
息子 金を掛けていないわりにはうまく作っているかな。でも、1800円の価値はない。800円ぐらいだね。日本映画の問題は入場料設定だよ。
親父 日本映画全盛時代の黒沢とか小津の時代から比べれば、今の日本映画はレベル的に問題にならないでしょう。
息子 でもまあ今はまあ娯楽は映画だけに限られないから、wiiとかプレステとかは、やっぱりレベルが高いと思うけどね。
<親父コミューンで暮らす>
親父 いかん、いかん、話を戻そう。三派全学連と全共闘のところに戻ろう。あんたがそっちに引っ張るから戻れないじゃないか。
息子 親父が横道に逸れて行っているんだよ。
親父 あんたがそこへ戻してくれなきゃだめなんだよ。
息子 まあまあ。いいから戻ってよ。
親父 で、たとえば三派全学連的なコミュニストの視点から言うと、1960年代後半に出てきたヒッピーとかフラワーチルドレンっていうのは理解不能なんだよ。コミュニストの目から見て。あんな不真面目な連中ということになる。だけど、ヒッピーって言われた連中に象徴されるもの、当時の言葉を使うとアンダーグラウンドとかカウンターカルチャーとか言われていたんだけど、全共闘はそういう要素を含んでいたんだよね。だから全共闘の中心にセクトは存在していたんだけど、全共闘の膨大な周辺には、ヒッピーとかアンダーグランドとか全部を含んでいた。
息子 親父がバリケードのなかでマージャンやってたのは、まあそういう意味を含んでいたんだね。
親父 まあまあまあそれどうでもいいような部分だけど、たとえばその全共闘と、たとえば当時でいうと唐十郎さんの劇団があって、唐十郎と季麗仙の息子、名前なんつったっけ、そう大鶴義丹だ、大鶴義丹ぐらい知ってるよね、マルシアと結婚してた。
息子 知ってる、知ってる。
野次 大鶴義丹の親父だよ。唐十郎が新宿の花園神社で赤テントを使って芝居をしていた。唐十郎は状況劇場っていうんだけど。もう一つ、早稲田小劇場っていうのがあって、それが鈴木忠志という人が主宰していたんだけどね。この劇場は早稲田の近くの喫茶店の2階で芝居をやってたんだけよ。紅テントでは唐十郎の奥さんだった季麗仙が主役で、早稲田小劇場では白石加代子さんっていうちょっと異様な女の人がトップ女優さんだった。で、親父の自慢は、この二つを両方とも見ているんだよ。唐十郎の「少女仮面」という芝居と、早稲田小劇場の「劇的なるものをめぐって」っていう芝居なんだけどね。
息子 よく、覚えてるね。
親父 我々の一つ前の世代だと、演劇っていうと新劇だったんだよね。新劇っていってももはや絶滅した分野なんだけど、政治的にいえば、三派であったり共産党であったりするんだよ。新劇っていうのはね。そして、状況劇場とか、早稲田小劇場というのが、全共闘なのね。
状況劇場にしても、早稲田小劇場にしても、まあ演劇におけるニューウェーブだよね。そのニューウェーブが、その後の小劇場ブームにもつながっていくわけだけどね。やっぱりそういうふうなものを周辺に含んだ、カウンターカルチャーの最初なんだよね、全共闘運動っていうのは。政治的運動ではあったけれども、文化的運動でもあったということを指摘しておきたんだよね。社会主義的運動の最後であると同時に、カウンターカルチャー運動の最初でもあるんだよ。
息子 ターニングポイントね。
親父 そう。その1917年に始まったものの最後であり、1989年につながっていく最初でもあるっていう、そこのところが俺は全共闘運動だっていうふうに、大きい歴史の流れでは理解しているんだよね。俺は一身でそれを2つ体験しているっていう気持ちがあるわけ。
息子 マージャンやりながらね。
親父 うん、まあたとえばね。俺が全共闘運動を終えて退学したのが1969年の6月で、その年の夏に、八丈島に1カ月くらい滞在しているのね。当時コミューンって呼んでいたヒッピーのグループが八丈島にあって、そこに行ったんだよ。小阪修平とその奥さんと一緒に行ったんだよ。「思想としての全共闘世代」の著者だよ。
息子 ヒッピー・コミュニティだったの?
親父 そうだよ。O君という人がそのコミュニティのリーダーだったんだけどね。絵に描いたようなヒッピー姿で、あごひげを長く垂らしてね。彼を中心に、八丈島で十数人がテント暮らしをしていた。そこで、俺も何週間か暮らしたんだよね、何をしていたのやらまるで覚えていないけれども、とにかく毎日夕陽を見て暮した。で、何が言いたいかというと、俺は68年の3月までコミュニスト系組織の活動家であったが、その後168年の夏から69年の春に掛けて全共闘運動を一年間やり、その後ヒッピーコミューンの生活も体験した。そういう意味で、あの時代の全てを俺は経験しているわけね。
息子 俺の、統一協会の体験が、ものすごくまともな、大人しい生活に見えてきたんだけどね。
<ヒッピーから社長に>
親父 で、この時のヒッピーのリーダーだったO君っていうのに、小阪の葬式でほぼ40年振りに会ったんだよ。「おー酋長」だねって言ったら、「あーKさん」と言って久しぶりに話したんだけよ。で、彼が今何をしているか。ちょっと当ててみな。
息子 酋長、そのときのヒッピーね。
親父 かってのヒッピーのリーダーが、今何をしてるか。
息子 なんか、目茶苦茶資本主義に走ってそうだね。どっかでなんかの社長やっているとか?
親父 社長だよ。社長だけど、四国で、自然食品のお店を経営している。
息子 あー、はいはい。
親父 彼は一貫しているんだよ。そういう意味では。
息子 ああそうだね、なんかヒッピーというと健康的な感じが、自然的な感じがする。
親父 そう、自然食品や有機食品を仕入れたり生産したりして、店頭販売と通信販売をしている。四国ちろりん村っていう会社をやっているんだよ。
息子
息子 スローライフのままで生きている。それはいいね。
親父 彼は彼の生き方を貫いてきたなっていう感じがして、感動したんだけどね。
息子 社長は当たってたけど、でも中身が全然違ったね。
<戦争から生みだされたロシア革命>
親父 話をまた1960年代後半に戻しましょう。で、当時の60年代後半の全共闘運動の背景に、階層的な差異が影を落としていた、全共闘はどちらかと言えば恵まれたお坊ちゃまの運動であった。もちろん、そうでもない学生も少なからずいたんだよ、実際には。
息子 苦学生ね。
親父 苦学生もいた。奨学金を貰ってようやく大学へ行った人もね。だから、さっきから言っていることはあくまで一般的な傾向だよ。
息子 それでも貧困層と比べたらいいよね。
息子 でも、学生運動をやっていたお坊ちゃんたちには、貧困層を救おうというような理念はなかったの。システムを攻撃するだけで?
親父 あったよ、それはもちろんあった。
息子 でも、彼らが民青という貧困層から反撃されたっていうのも、また皮肉な結果だったよね。
親父 まあ、そういうもんだよ。
息子 面白いですね、面白すぎる。
親父 まあ、歴史はそういうふうに動くもんだよ。だって、ロシア革命のボリシェヴィキのメンバーなんて、みんなロシアの貴族か数少ない中産階級の出身だよ。それは当たり前だよ。少なくともある程度の教育を受けて、文字が読めて、生活に余裕がなければ、革命運動なんてできないんだからさ。
息子 でも文字通り金もなく知識もない連中が、暴動とか農民一揆に走るっていうことはありそうじゃない。たとえ文字が読めなくても、今の中国で起こっている暴動みたいな形の運動が。
親父 中産階級の知識を持った連中が、いま君が言ったような運動と結びついたとき、本格的な革命運動になるんだよね。ロシア革命でいうと、革命を成し遂げたグループは、元々一握りのインテリの運動に過ぎなかった。革命運動をやったのは、ボリシェヴィキ、メンシェヴィキ、社会革命党などという小さな政治結社なんだよね。そういう小結社が、ある一瞬に貧しい農民たちの心を掴んじゃったわけだよ。それがロシア革命だった。かつてはツアーリに忠実だったロシアの農民の心をツアーリからボルシェビーキに向かわせたのは、対ドイツ戦の軍事的敗北なんだよ、第一次大戦におけるロシアの敗北は悲惨だった。ロシアの技術的後進性、軍隊の前近代的性格、そして例によってニコライ皇帝を筆頭とする政治と軍の指導者たちの凡庸さ、これらが相まって、ロシア軍はドイツ軍に敗北に次ぐ敗北を喫するわけだよ。ロシア軍はドイツ軍と闘っても歯が立たない、戦えば必ず負けてばっかりなのよ。第一次世界大戦の死者のリストを見れば分かるけど、参戦国中一番死者が多いのがロシア、協商国側で次に多いのがフランス、次いでイギリス。中欧同盟側では、トルコ、ドイツ、オーストリアの順番だよ。第二次大戦のソ連はもっと沢山の死者を出していることは、昨日話したよね。
ロシアはドイツのとの戦争に負け続けた。貴族出身の将校たちの命令に黙って従っていたんじゃ、兵隊は殺される一方だった。兵隊はみな農民出身者だよ。戦場に投入された1部隊が、一回の会戦でその90%が戦死させるなんてことがしばしば起こった。
息子 ドイツの戦車で殺されたの?
親父 当時の東部戦線には戦車は出現していないよ。西部戦線で出現したのは1917年だったけど。ドイツ軍の砲兵技術の前にロシア軍は大敗を続けたんだよ。
息子 キャノンね。
親 西部戦線のフランス軍、イギリス軍、ドイツ軍が採用していた常識的な集中砲撃技術、三角観測による間接射撃で、ロシア兵がばたばた殺された。
息子 まあロシアの技術は圧倒的に遅れているからね、今のロシア製のマシンもそうだけど。
親父 当時のロシア軍の知識水準が低すぎた。ロシア軍の将校の命令に従っていてはただ殺されるだけだということに兵隊たちが気づき始め、命令に従わない兵士や脱走兵が増えていった。ロシア兵のことを、レーニンは「軍服を着た兵士たち」って言ったんだけど、そういう農民出身の兵隊が脱走したり遊軍化したりした。ボルシェビーキはそういう兵士たちを組織したんだよ。
息子 格差社会だから、一番下の農民が兵隊になるのね。
親父 そう。当時のロシア人の大多数は小作農民で、彼らが徴兵されて戦場にいくわけだよね。彼らがこんな戦争をやらせる皇帝の政府に従っていては殺されるだけだと思い始めたときに、「平和、土地、パン」っていうスローガンを打ち出したのがレーニンのボルシェビーキだった。このスローガンでレーニンは権力取ったんだよ。
息子 負ける戦争はこれ以上続けない。戦争やってもしょうがないということか。
親父 平和とはドイツへの降伏。土地は小作農が一番欲していたもの、地主の追放。パンは食糧の確保。これで政権を取った。だから一握りのインテリの運動が、歴史の瞬間に存在した一瞬の極限的な事態の中で、小作農というロシア人の大多数の気持ちをつかんで、いっぺんに政権を取ったんだよ。そういうことはありうるんだよ。そのダイナミズムの積み重ねで、歴史というやつは動いてきたんだから。
<歴史は地殻変動的に動く、黒人の場合>
アメリカの黒人差別問題の歴史でそういう人を探すと、アンクル・トムズ・キャビンを書いたストウ夫人だね。彼女が書いたアンクル・トムズ・キャビンで、歴史は動いたわけだよね。
息子 知らない。
親父 いわゆる南北戦争の原因となったとされる本だよ、南北戦争っていうのは、この1冊の本から起ったって言って過言ではないんだよ。アメリカの黒人奴隷の悲惨さを書いた。基調は良心的な白人の黒人に対する非常に情緒的な同情心なんだけど、この本が売れたし、白人たちの心を動かした。
息子 南北戦争前にその本が書かれて、南北戦争が起った。北軍が勝って奴隷解放宣言は出たけれど、しかし黒人に対する人種差別は続いて、1960年代になってマーチン・ルーサー・キングが出てきて公民権運動が起きて、最終的に黒人は法的に解放された。でも、格差社会そのものは続いているし、黒人は法的には奴隷ではないにしても、実質的に奴隷的な立場になっている。黒人は社会の底辺に居る奴隷だよ、実質的に。
親父 いや、そこの辺は、俺はあんたとちょっと考え方が違うんだけど、確かに実質的にはそうかもしれない。だけど、100年前とはやはり違う。
息子 やっと黒人が大統領候補になって変わってきたかなとは思うけど。でも、オバマみたいな黒人はホンの一握りだよ。
親父 いや、一握りだけどゼロではないんだよ。そこが大事だよ。
息子 ゼロではないけど、ほとんどの黒人が社会の1番下の構成員
親父 だって1968年以前は完全なゼロなんだから。
息子 でもほとんどの人は奴隷ではないけど、最貧困層だよ。
親父 だけど、現在の黒人は、選挙権は持っているし、白人と一緒のバスに乗れるし、一部には金を持っている連中も出てきた。要するに歴史っていうのはゆっくりと進んでいるから、黒人、人種差別の問題とかそういうことに関して言えば。スロウ・バット・ステディ(ゆっくりとしかし確実に)、そしてある時期には一瞬に進むんだよ、あんたの指摘するようななかなか変わらないという側面は一面の事実だとは思うけどね。
息子 少しずつ、ほんの少しだけど改善している
親父 ほんの少しだけどいるよ、ハーバード卒業して年収10万ドル以上取っている黒人はいるはずだよ。
息子 黒人人口の1%以下だね。
親父 1%パーセント以下でもいるんだよ。いることが重要なんだよ。
息子 でも実質的に見りゃ変わってない。残りの99%以上は同じなんだから、貧困層なんだから。
親父 たとえば、ニューヨークのハーレムでビジネスを成功させている黒人もいるわけだろう。ハーレムのギャングがクスリを売って黒人を搾取する、そういうやつもいるでしょう。で、デンゼルワシントンが映画で大統領の役をやったりするわけだよ。オバマだって本当に大統領になる可能性は非常に高いよ。少しずつ変わって、一瞬にして変わる。歴史はそういうもんだよ。地震と同じだよ。地殻の歪みが少しずつ貯まって、ある日突然大地震になって現れるわけだよね。
<大学受験の内申書を書いてもらえなかった親父の奥さん>
親父 5年や10年だと分からないけど、50年で見ると確実に変わっている。婦人参政権だってさ、高々まだ100年経つか経たないかでしょう、婦人参政権が承認されてから。
息子 でも、やっぱり女性議員の数は少なすぎる。
親父 日本で女性参政権が認められたのは、1946年の総選挙が最初だろ。まだ60年しか経っていない。
息子 女性で責任ある地位にいる人は少ないし、未だにほとんどの人、というか多くの女性が派遣とかパートだしね。
親父 でも、前よりは正社員が増えているだろう。大手企業で課長職に就く女性も増えているでしょ。
息子 まあそうだね、ましになってはいる
親父 まあ、今の日本で大手企業の課長になることにどんな意味があるのって言われたらそれはまたそれで別の問題だけど、課長になったり部長になったり、役員になったりしている数は、やっぱり増えているわけよ。で、あんたのお母さんの時代なんて、ひどいもんだった。前にあんたに話したことがあるかもしれんけど、あんたのお母さんは高校を卒業して、国立大学のインドネシア語科に入りたかったんだよ。しかし、高校の教師が内申書を書いてくれなかったんだよ。
息子 今だったら人権問題。
親父 当時だって、人権問題だよ。高校の教師がいったらしいよ。女が外国語を勉強するなら、英語かフランス語かまあドイツ語まで。インドネシア語なんて女がやる言葉じゃないって。で、現役受験のときに担任の教師が内申書を書いてくれなかったんだよ。だから、あんたのお母さんは最初の受験に落っこちたんだよ。内申書なくて国立大学受かるわけがないよね。で、ご存じの通り、あんたのお母さんは意地っ張りで、その性格で俺はめちゃめちゃ苦労したんだけど、それでもインドネシア語科を受けるって意地を張った。その結果、やむなく1年浪人したんだよ、あんたのお母さんは。
息子 すごいね、今だったら裁判沙汰だよ
親父 そうだよ、裁判沙汰だよ。一浪目でようやく学校が内申書を書いてくれて受かった。
息子 面白いね
親父 その高校の教師の論理では、インドネシア語のようなアジアの言葉は、男子生徒が勉強して、商社などに就職するための道具として学ぶ言葉だ。それを女が学んで、男子の就職の機会を奪うのはけしからん。だから、内申書を書かないというんだよ。で、卒業後も大変だったんだよ。4年生の国立大学出ても、就職先なんて無いわけだよ。まああるとすれば教師の道くらいしかなかった。民間企業なんて自宅通学のOLしか雇わなかった。国家公務員がキャリア職員に女性の採用を始めたばかりの頃で、キャリアの役人になった人が何人かいる程度だよ。指を折って数を数えられるぐらい。
息子 なるほどね。でも中小企業にはIさんのような面白い変なおっさんがいるから、お袋も職場が得られた。
親父 まあ中小企業というより、零細個人企業だよ。
息子 ワンマン企業。まあそういうおかげでそういう面白い人たちの出逢いがあったわけだ。アッハッハッっていう、そういう締め出されちゃうおかげで。
親父 だから要するに、女性の問題だって、本当に女が普通に働けるようになったのなんて、ごくごく最近の話であって、
息子 そういう意味ではすごい進歩なんだ、最近の
親父 20年ぐらいのもんだよ。男女均等雇用法ってのができたのが20年ぐらい前だと思うけどね。だから黒人問題だって、南北戦争で奴隷解放が実現して、公民権運動が盛んに行われて公民権法が制定されるまで100年掛かっているわけでしょう。例のキングの有名な演説があって、やがてルーサー・キングが暗殺された。それが1968年だった。ロバートケネディ、JFKが64年に暗殺されて68年にロバートケネディとマーチン・ルーサー・キングが暗殺されているはずだよね、俺の記憶ではね。
息子 女で暗殺された人はあまりいないようだね。
親父 まあオバマだって、暗殺の危険はあるとは思うけどね。しかし、歴史は一昔で変わるよ。
息子 ひと昔前とは、一世代前ということか。
親父 そうそう、要するにあんたが見てるのは、リアルタイムの目の前のことを見てるから、それ、俺はキミより30年ぐらい長く生きているわけだから、一世代前を知っているわけだ。リアルタイムを見ていると同時に、30年前、40年前ぐらいを見ているわけだから、あんたが見ているのがこの15年位だとすれば、この10年ではあまり見られないように思えるような大きな変化が、40年とか50年とかいうスパンで見ると、やっぱり起きているんだよ。
<息子 現代はチャンスがいっぱいの格差社会>
息子 しかし、現在の日本は、おじさんと若者との格差がすさまじいぞ。年収300万の派遣と300万無いのか、200万ぐらいか。200万の派遣と社長は1億だから、まあたったの50倍ぐらいの差で、
親父 社長は1億ってどこの会社だよ
息子 うっ、うちの会社だよ。見たんだよ、給与の原簿を
親父 どうなんだろうね。俺はそのこと自体はそう大きな問題だとは思わないんだけどね。息子 年収200万円の派遣社員と1億円の社長の間には、実際そんだけの付加価値の差があることも事実なんだよね。一応派遣の人は、ミーティング、面接、アレンジのセットアップ程度のことしかできないわけだから。経理上の数字の計算とかは全くできないから、それはしょうがないんだけど
親父 それはその通りなんだろうね。だから、加藤智宏もそうなんだろうけど、その位置から這い上がれないってことが問題なんだよね。這い上がるチャンスがない、這いあがれるはずがないと思って、這い上がろうとしない。特に、一度外れちゃうと、もうチャンスがないと思ってしまうということが一番の問題なのかな。金がなくてチャンスがないと思い込んでしまう、あるいは、思い込ませてしまうことが問題だと思う。
息子 金無くたって図書館があるんだから、仕事行ったあと、もしくは週末、猛烈に本読めば、大学なんて行かなくなったいくらでも学べるんだよ。もしくは本屋で立ち読みするとか。
親父 俺もそう思う。
息子 本屋で立ち読み、本屋で立ち読み。だから俺だってチャンスが無いとは言わせないから。
親父 今の時代にもね。
息子 特に、今はインターネットがあるんだからね。今の日本で一番頭がよく情報が入ってくる人たち、例えば大前研一さんでも孫正義さんでもいいけど、彼らがアクセスできる情報とほとんど同じ情報を得られる。現代は、そういう格差、その機会均等が存在しないという意味での格差は存在しない。機会均等じゃないという言い訳はもうできない時代なのかなと思う。
親父 確かに、そうだね。
息子 例えば、色んな教材だって売っているんだからさ、そんなに高くないけどさ、英語とか、経理とか、IT技術とかの教材だね。留学しなくても機会は沢山ある。実際、我々の近い親戚のFさんはそういう形で這い上がってきたでしょう。自分でプログラミングと英語を勉強して、ゼロから勉強して這い上がって、高給取りのSE(システムエンジニア)になったわけだよね。
親父 コンピュータ技術者だよね。
息子 でも、コンピュータ用語は英語だよ。中卒でABCも分かんないから。本当に苦労して勉強したと言っていた。から30歳くらいからキャリアアップしたわけだよ、恐ろしいスピードでキャリアアップしたわけだよ。
親父 Fさんはモチベーションも高かったし、ベースの能力もあった。そしてチャンスがあった。病院に就職して、その病院がコンピュータ化を始めたときに、彼が自ら立候補してその仕事を始めた。その結果、SEとして高給が取れるまでに至った。ベースの能力とチャンス、この2つだよね。
息子 30歳になってから英語を勉強したというのは、とても信じられないよ。
親父 Fさんは最終的に1千万円プレーヤーになったわけでしょう。ほんとうそれはすごいことだと思うんだよね。中学校卒業の男が30年後に1千万円プレーヤーになったっていうのは、すごいことだよね。
息子 親父が若かった時代に、共産党と反共産党的左翼の間の思想上の対立の背景には、社会的な格差社会の対立があった。俺の周りにおける、その典型が親父とFさんであったという理解でいいのかな?
親父 大ざっぱにいうと、そういうことだね。このことは1960年代を理解するための一つのバックグラウンドとしてキチンと言っておかないと、フェアさを欠くかなと思うんだよね。フェアっていうのもおかしいけど、一種の階層的な背景、高度成長時代真っ只中の時代における日本の階層配置みたいなのが、1960年代の騒然とした時代の拝啓に厳然としてあったわけだよ。
<必要なのは国家のリストラ>
息子 格差社会というのは、小泉政権時代のアメリカ型社会の導入ということになっているけどどうなのかな?
親父 大学入学を希望する者が大学に入れるという意味で、大学全入時代と言われるようになったのは1980年代だった。そういう意味で、1960年代から80年代の20年間ぐらいで、いわゆる1億総中流社会が実現しちゃっているわけだよね。それがバブルの崩壊に対応する形で、ゆっくりと崩れてきた。それが現状だと思うけどね。
息子 小泉の言いたかったことは、そのキャピタリストの一員として俺はよく分かるんだよ。お金を稼げる人にもっと儲けさせて、それによってセーフティネットに送る金を増やそうということだね。しかし、金を稼げる人に儲けさせる前に経済がダメになり、セーフティネットの財源のないまま貧困層だけが大量に出てきて、大問題になっている。それが俺の現状認識なんだよ。結局、政治が金を無駄に使ってしまった。だから、税収が不足する一方で、けっきょく医療も崩壊、年金も崩壊、全て公的資金システムが崩壊しているっていうのが現状だよね。
親父 要するに、パブリックセクターが税金をおいしく食べちゃっているんだよね。
息子 そう、だから小泉首相は、民間を活性化させるには格差社会的システムを導入したんだけど、政府をリストラしなかった。だから、彼の構想は実現せず、格差の痛みだけが残されたっていうことだね。
親父 だから、まず政府のリストラをしないと、何も始まらないわけだよ。ことは非常に簡単で、要するに公務員が給料を取りすぎているんだよね、公務員の数が多すぎる。仕事が無いのに高給を取っている。このセクターの生産性が低すぎて、成長の足を引っ張っているんだよね。
息子 むしろ、彼らは積極的に天下り先を作っているよ。IT化、デジタル化というのは、人を減らして生産性を向上させるためにやるんだけど、パブリックセクターはデジタル政府化を旗印に天下り団体を作っている。デジタル化しても生産性は向上しないんだよ。
親父 公務員の数と人件費を半減して、パブリックセクターの運用コストを4分の1にすることが、日本の経済成長の前提だと思うよ。財政のうち人件費が半分とすれば、それを半減すればよいんだよね、
息子 民間企業の経理をやっている立場からすれば、コストの8割が広義の人件費だからね。それを4分の1にすれば60%コストが下がる。
親父 そんなに人件費比率が高いかね?
息子 俺は企業の会計をやっているからね。企業コストの7割は人件費です。残りの2割が設備の減価償却コストなどだね。
親父 でもそれは会社によって違うでしょう。
息子 会社によって人件費比率は違うけど、まあ、コストの7割くらいのものだよ。なんで、民間企業がリストラするかというと、人件費がコストの根源だからだよ。その他に大きなコストはキャップエックスだけだね。
親父 キャップエックスっていうのは?
息子 キャピタル・エクスベンディチャー
親父 あー設備投資だね
息子 もちろん不景気のときは設備投資を控えるけど、それを止めるのは当たり前であってね。でも、キャップエックスを止めるだけじゃ足りないから、やっぱり人件費も削らなければならない。簡単に計算するとね、設備投資を5年償却だとして、売上と同じ程度の設備投資額があると仮定すると、その投資額の2割を償却する。だからやっぱり1億円の売上があったら2千万ぐらいは投資しているわけだね。でも1億円の売上があって、経費が9割で、経費の8割は人件費なんだから、設備投資を削るより、人件費を削減する効果のほうが大きいわけだよ。常識的にいえば、コストが売上の二倍になりつつある現在の財政では、人件費を大幅に削減するしかないんだよね。
親父 ある役所なり行政法人があるとすると、そこがたとえば年間2千億の予算を使っていると、そこの中の人件費が5割だとするよね。その予算を、たとえば1割減らすとする。そうすると、官庁用語ではマミズ(真水)っていうんだけど、予算マイナス人件費なんだよ。ここが本当に使われているコストなんだよね。その役所が現実に支出しているお金だね。ねっ。そうすると、予算が1割減ると、5割の人件費に手をつけないと、マミズ部分は2割減ることになるんだよ。君がいうように、8割が人件費だと仮定すると、予算1割減だと、真水部分が半減することになる。この20年間、財政で景気を刺激するといい続けてきたけれども、その大半がパブリックセクターの人件費に消えて行っただけだったというのが真実でしょう。
人間に手をつけないことが、今の公務員システムの最大の問題だよね。どう考えたって、学校で給食を作っているおばちゃんが、700万だとか800万だとかの給料を取ってるのはおかしいだろう。
息子 オリジン弁当の従業員やパートのおばさんが、年収700万円取っていたら、オリジン弁当は潰れちゃいます。
親父 人ごとのように言っているけど、現実に給食のおばちゃんが年収700万円以上取っているんだよ。だから、パブリックセクターが潰れているんだよ。
息子 公務員だからという理由で、本当にそれだけ貰っているの?
親父 そうだよ。俺の友達の奥さんが東京の小金井市で給食のおばさんをやっていて、700万以上の年収なんだよ。
息子 ひどいね。年収に加えて、さらに手厚い年金などの社会保障補償費を付けているから実際にはもっと掛かるんだよね。
息子 給食費を払わないっていうモンスターペアレントがいるっていうけど、それって公務員制度への逆襲じゃないの。
親父 そういう側面もあると思うんだよ。
息子 最近の親にはモラルが無いっていうけど、政府のほうがもっとモラルがないっていう話だね。
<公務員セクターとメディアの一体的キャンペーン>
親父 最近、さしたる事情がないのに、119番で救急車を呼んだり、110番するやつが増えているのは、どうもそういう背景があるんじゃないかと思ってるのね、俺は。
息子 どうせお前らは無駄に金使ってるんだから、納税者のおしゃべりの相手ぐらいしろよっていうことだ。こんな平和な日本で、大した仕事もないのに、なんで警察官や消防隊員に高い給料払わなきゃいけないんだということか。
親父 背景にはそれがあると思う。
息子 びっくりしたんだけど、2007年というのが、凶悪事件の件数から見ると、戦後1番平和な年だったんだそうだね。しかし、そのような事実は大きく報道されない。若者のモラルが低下して凶悪犯罪が増えているから、警察官の増員が必要みたいな報道ばかりが目につく。完全な情報操作だよ。
親父 警察とメディアが組んだ、キャンペーンなんだね。
息子 でしょう。社会が平和なのに警察の増員が必要だということは、不要なものを売りつけているわけじゃない。民間企業の世界だったら、公正取引委員会に摘発されるような営業をしているわけだよ。警備保障会社がそんな恐いコマーシャルを流したら、たちまち公正取引委員会に摘発されるよ。俺としては、凶悪犯罪がどんどん増えているような報道の仕方のほうが、よっぽど犯罪的報道だと思うんだけどさ。
親父 それはそういうふうにしたほうが警察は予算が増えるわけだし、人員も増えるわけだよな。
息子 警察としては、アルソックとかに顧客を取られちゃうのがいやだからっていうことなのか。
親父 俺、警察官の友達がいないから彼らの給料は知らないけどさ。
息子 目茶苦茶高いよ。俺の元妻の父ちゃんは警察官だったんだけど、リタイアするときに一階級を上げられて、退職金と年金のランクが最後にボーンと上がって、なんかウハウハ生活だったていうのを聞いたよ。
親父 だから、そこがどうにもならないんだよね。
息子 そんなことは民間企業だったらやれないから、妥当な額で我慢してくれっていう話になるんだけど、公務員の場合は、税金だからまあいいや、俺の金じゃないからっていうことになるからさ。
親父 公務員セクターは、少なくとも今のところ経営破綻はしてない。その大きな背景は、やっぱりメディアがやっぱり公務員セクター側に立っていることだよね。
息子 消費者庁を作るなんていうのは、なんか悪いジョークみたいだよね。消費者は安くて品質のよいものとサービスを望んでいるのに、消費者庁を作って企業に報告義務だの業界団体作りなどをさせて、結局コスト引き上げ要因を作るだけでしょう。それをメディアは大歓迎しているからね。けっきょく、メディアだって政府側だから、どうにもならんということだね。
親父 まあ、NHKとか朝日新聞とか読売新聞とかテレビ各社を含めて、完全にいわゆるその寡占産業であり、独占産業であり、規制産業だからね。既得権益の塊だからね。民間企業だとは言っているけれども、マスメディアは、実際上は準ハブリックセクターなんだよね。
息子 ライブドアの堀江にフジテレビを買われそうになったとき、メディアは総連合を組んで叩き、さらに検察まで動員してホリエモンを叩き潰した。政府とメディアが、よってたかってライブドアを潰したからね。あの時の報道は、中国並みの情報統制だったと思うよ。
親父 俺がここで指摘したかったことはどういうことかっていうと、例えばフジテレビの社員であること、朝日新聞の社員であること、NHKの職員である人たちは、単純にいえば給料が高くて、この高い給料を維持したいと思っている。そのためには、現状の規制を維持する必要があるから、政府と密着していなければならない。政府からの特権保護を失っては、メディアの高いポジションと高い給料を維持できない。それが彼らの一種の共通認識になっている。だから、ホリエモンみたいな新規参入者は叩き潰さなければならないとおうことになるんだね。あんたが言うとおり。
息子 まだ、NHKより民放のほうが競争がある分だけ良心的なのか?
親父 いやそれは甘い。だって放送は免許制なんだからね。政府が潰そうと思えばいくらでもつぶせるし、局の数は増えないんだから。民放だって全面的な規制下あるんだよ。民放が良心的だっていうのは、まるで甘いと思う。
息子 まあそうか、放送局はぼろ儲けしてきたから、政府に陰で金を回しきただろうけど。
親父 ただ、新聞にしろ、放送にしろ、これから先にどうなるかは大問題だよ。テレビは今のまま生き残れるかとか、新聞が今のまま生き残れるかっていうのはね。インターネットとの関係で、新聞はそろそろ終り始めておると思うしね。
息子 もう新聞は終わったね。
親父 まあ、テレビもおそらく10年もたてば終わっていくだろうと、俺は思うけれどもね。また、話が60年代からずれたね。
<全共闘が戦ったシステムとは?>
息子 ずれたけど、まあ、かつての格差社会が政治に反映していたということは、新鮮な認識だったよ。
親父 そのことはキチンと言っておききたかった。で、その次に何を言いたかったか。俺が言いたかったことは、三派全学連と全共闘との関係、というかその間にある大きな差なんだよ。それまでの政治運動と比べて、全共闘って明らかに違ったんだよ。単純にいえば社会主義運動、コミュニズム運動じゃないんだよ。そこを俺は指摘したかった。
息子 反体制派っていうことかな。
親父 昨日も言ったことなんけど、全共闘はアメリカにおけるベトナム反戦運動と、本質的に同じなんだよ、だってアメリカにおけるベトナム反戦運動は、コミュニストによってリードされたわけじゃないでしょう。
息子 単にベトナム戦争反対、ベトナムからアメリカ軍は引き揚げろってことだったね、彼らの主張は。
親父 それと同じ。もちろん、全共闘運動はコミュニストと称するセクトによって主導はされたのだけれども、全共闘のベースはコミュニズムじゃなかったってことだよ。
息子 思想は、反政府だけど、コミュニストじゃない。
親父 反政府っていうか、単純化していえば、悪いものは悪いっていうことだよね。
息子 正義感?
親父 正しいことは正しい、間違っていることはやめようということ。もう一度さっきの言葉を使えば、システムに対する異議申し立てだったんだよ。
息子 悪かったのは、ベトナム戦争と他に何が悪かったの? 大学の教育?
親父 大学だよ。大学教育というよりも大学のシステムだよね。
息子 それは、さっき言っていた理不尽な退学処分があったから?
親父 その退学処分にシンボライズされるようなシステムということかな、まあ文学部とか経済学部、いわゆる文科系は必ずしもそうではないけれども、今でも、例えば工学部なんかでは、教授が、誰をどの会社に就職させるっていう権利を持っている。昔からそうなんだけど。この先生は、たとえば三菱グループのメーカーに強いとか、そういうことがあったし、今でも多かれ少なかれある。
息子 就職活動の自由が、じつは学生には無いってこと?
親父 少なくとも工学部の学生には、就職の自由は学生に無かったんだから、当時は。
息子 それはどういうシステムになっているの、学校側に企業がキックバックを払っているわけじゃないでしょう。
親父 違うと思うけどね。三菱重工なら三菱重工でも、日産なら日産でもいいんだけど、要するに、たとえば東大の工学部の機械、機械科っていうのがあるじゃない。機械の卒業生が、たとえば毎年50人いるとしようか。それが○○社に何人、XX社に何人って割り当てがあったりする。
息子 もう枠が決まっちゃっているんだ。
親父 そういう割り当てがあるわけだよ。
息子 どういう意図で教授はそれをやっているの?研究費を寄付してもらっている企業に卒業生を割り当てるわけ?
親父 たとえばそういうのもあるだろうね。人脈というのか、何十年前の教授から受け継がれている枠とかね。俺の大学時代の友だちのH君、彼は機械科を出て、有力な重厚長大メーカーに就職したんだけど、それも教授の割り当てで就職しているわけだよ。この割り当てに逆らったら、少なくとも日本の超大手企業には就職できない。君と同じくらいの年齢の若い友人のBさんっているでしょう。彼は、旧帝国大学の理学部の卒業生なんだけど、教授が割り振った就職先を断って、一年間カナダに語学留学をした。就職氷河期ということもあったんだけど、留学先から日本に帰ってきたら就職先がまったくなかった。教授の怒りに触れたから、大学は一切紹介しなかったということだよ。
息子 今は、そういう意味ではすごく変わったと思うよ。就職して2、3年で辞める若者っていうことが話題になっているんだから。確かに、教授が就職先を割当てているのかもしれないけれど、やだよってやめちゃうやつも多いよ。転職しちゃうよ。元カノのMちゃんだって、H大学から経団連会長を出している会社に就職したけど、2年で辞めて次のIT系の会社に行った。
親父 Mちゃんの担当教授は、経団連会長を出している会社の人事部から強烈な厭味を言われたことは間違いないね。取ってやったのに何だよ、2年で辞めやがってという意味の嫌味をね。それで教授から学生への縛りがますます強くなったんじゃないの?
息子 でも今は、みんながやっているからいいんじゃないの。
親父 けっこう多いのかね?でも、たとえばトヨタを、トヨタを2年で辞めるっていうのは、まずいないだろう。
息子 いるから、問題になっているんじゃないのかな。
親父 たと。例えばメガバンクに就職して、2年で辞めるとかっていうのはありそうだなって思うんだけど。だけどどうだろう、ホンダを2年で辞めるとか、ソニーを3年で辞めるとかいうのは、あまりないんじゃないの。
息子 そうじゃないよ。そういうトップ企業だってやめちゃう若者が増えているんだよ。それは、労働市場が成熟してきたという意味で健全なことだよ。根性が無くなったということもあるんだけどね。
親父 確かに、それは健全だと思うよ。22歳とか24歳とか就職先を選ぶチャンスが人生で1回しかないより、圧倒的に健全だと思うよ。
息子 まあトヨタみたいな代表的日本企業が良い会社なのかどうか、それが問題だと思うけどね。過労死はしているは、下請けには厳しいしね。トヨタの下請け上場企業なんか、たとえ部長クラスであっても、トヨタの平社員に平身低頭だよ。これも俺のガールフレンド人脈からの話。
親父 トヨタっていうのは、日本的経営と称されているある一本道をとことん突き詰めたら、良くも悪しくもこうなりましたっていうような会社だからね。
息子 秋葉原の加藤君も、トヨタの下請けで働いていたわけだよね。
親父 トヨタの下請けの下請けで働く派遣っていうことだね。
息子 まあトヨタが安く車を作れる理由っていうのも、そういうところにあるんだろうけどね。
<プロジェクトXというナツメロ>
親父 ちょっと話がずれるかもしれないけど、今の日本が抱えている問題っていうのは、トヨタとかシャープとか、会社の名前はともかくとして、東芝でもソニーでもいいけれども、こういうたぐいの会社が栄えることが、日本が栄えることだっていう認識なんだと思うんだね。1960年代、70年代、80年代に栄えた会社が、21世紀の、現在においても栄えなければならないっていうのが、日本人を縛っている呪縛なんだよね。「物づくり大国・日本」と自賛しつつね。
息子 でも、確かにモノ作りは日本人の得意分野ではあるからね。トヨタの秋葉原加藤君のレベルになると蟹工船になっちゃうかもしれないけど。
親父 いや、ちょっと違うと思うんだよ。日本人の得意分野とかいうより、日本人の保守性なんだと思うんだよ。高度成長時代からの産業構造を変えるのが恐いんだよ。
息子 そのサービス産業にとかにね。
親父 情報産業であったり、サービス産業であったり、ソフトウェア産業であったり、内需指向型産業であったりね。小売業だったり、レストランチェーンだったりね。モノづくりから脱却する方向に変わらなきゃいけないのに変えられない。株式市場だって、依然として円安を歓迎する。輸出企業が儲かることが日本経済がよくなることだということになっている。円安だと日経平均が上がるって、そんな馬鹿な話ないんだよ、30年前のストーリーで生きているわけだよ。
息子 そういう意味では、確かに転換しきれてないね。
モノ作りが日本人に向いているとかいうのは、はっきり言って一つのイデオロギーだからね。
息子 でも、確かに日本人のきめの細かいサービスは素晴らしいよ。
親父 そうだよ。きめの細かいサービスというのかな、あるいはカスタマオリエンテッドなビジネスっていうのは、これは日本人のいいところだと思うよ、俺も大いにそう思うけど、それがなぜモノ作りじゃなきゃいけないのかっていうことだよ。ソフトウェアだって、小売業だって、アニメやゲームだっていいわけでしょう。きめ細かいサービスはいいけど、それをモノ作りだけに短絡させることが問題なんだよ。
息子 確かにそうかもしれない。
親父 だから俺NHKの例の「プロジェクトX」ね、この番組っていうのは、そのモノ作りのナツメロを延々と語っているわけだよね。ナツメロを情緒的に持ち上げて語ることによって、21世紀も同じことをやれよって言っておるんだよ。今でもやればまだできるぞ、トヨタもパナソニックもやっているぞ、モノ作り頑張れって言っているのに等しいんだよね。時代錯誤もいいところだよ。常識的に経済のサイクルを考えれば、今の日本がモノ作りだけで生きてけるはずがないよね。情報テクノロジーであるとか、あるいは広い意味での娯楽産業であるとか、そういう方向にいかなくて何があるのよと思うわけね。
息子 まあアニメとか映画は結構いいんじゃない。ハリウッドほど金を掛けられないけど。
親父 だけど、日本映画のレベルはハリウッドとは比べ物にならないよ。
息子 金を掛けていないわりにはうまく作っているかな。でも、1800円の価値はない。800円ぐらいだね。日本映画の問題は入場料設定だよ。
親父 日本映画全盛時代の黒沢とか小津の時代から比べれば、今の日本映画はレベル的に問題にならないでしょう。
息子 でもまあ今はまあ娯楽は映画だけに限られないから、wiiとかプレステとかは、やっぱりレベルが高いと思うけどね。
<親父コミューンで暮らす>
親父 いかん、いかん、話を戻そう。三派全学連と全共闘のところに戻ろう。あんたがそっちに引っ張るから戻れないじゃないか。
息子 親父が横道に逸れて行っているんだよ。
親父 あんたがそこへ戻してくれなきゃだめなんだよ。
息子 まあまあ。いいから戻ってよ。
親父 で、たとえば三派全学連的なコミュニストの視点から言うと、1960年代後半に出てきたヒッピーとかフラワーチルドレンっていうのは理解不能なんだよ。コミュニストの目から見て。あんな不真面目な連中ということになる。だけど、ヒッピーって言われた連中に象徴されるもの、当時の言葉を使うとアンダーグラウンドとかカウンターカルチャーとか言われていたんだけど、全共闘はそういう要素を含んでいたんだよね。だから全共闘の中心にセクトは存在していたんだけど、全共闘の膨大な周辺には、ヒッピーとかアンダーグランドとか全部を含んでいた。
息子 親父がバリケードのなかでマージャンやってたのは、まあそういう意味を含んでいたんだね。
親父 まあまあまあそれどうでもいいような部分だけど、たとえばその全共闘と、たとえば当時でいうと唐十郎さんの劇団があって、唐十郎と季麗仙の息子、名前なんつったっけ、そう大鶴義丹だ、大鶴義丹ぐらい知ってるよね、マルシアと結婚してた。
息子 知ってる、知ってる。
野次 大鶴義丹の親父だよ。唐十郎が新宿の花園神社で赤テントを使って芝居をしていた。唐十郎は状況劇場っていうんだけど。もう一つ、早稲田小劇場っていうのがあって、それが鈴木忠志という人が主宰していたんだけどね。この劇場は早稲田の近くの喫茶店の2階で芝居をやってたんだけよ。紅テントでは唐十郎の奥さんだった季麗仙が主役で、早稲田小劇場では白石加代子さんっていうちょっと異様な女の人がトップ女優さんだった。で、親父の自慢は、この二つを両方とも見ているんだよ。唐十郎の「少女仮面」という芝居と、早稲田小劇場の「劇的なるものをめぐって」っていう芝居なんだけどね。
息子 よく、覚えてるね。
親父 我々の一つ前の世代だと、演劇っていうと新劇だったんだよね。新劇っていってももはや絶滅した分野なんだけど、政治的にいえば、三派であったり共産党であったりするんだよ。新劇っていうのはね。そして、状況劇場とか、早稲田小劇場というのが、全共闘なのね。
状況劇場にしても、早稲田小劇場にしても、まあ演劇におけるニューウェーブだよね。そのニューウェーブが、その後の小劇場ブームにもつながっていくわけだけどね。やっぱりそういうふうなものを周辺に含んだ、カウンターカルチャーの最初なんだよね、全共闘運動っていうのは。政治的運動ではあったけれども、文化的運動でもあったということを指摘しておきたんだよね。社会主義的運動の最後であると同時に、カウンターカルチャー運動の最初でもあるんだよ。
息子 ターニングポイントね。
親父 そう。その1917年に始まったものの最後であり、1989年につながっていく最初でもあるっていう、そこのところが俺は全共闘運動だっていうふうに、大きい歴史の流れでは理解しているんだよね。俺は一身でそれを2つ体験しているっていう気持ちがあるわけ。
息子 マージャンやりながらね。
親父 うん、まあたとえばね。俺が全共闘運動を終えて退学したのが1969年の6月で、その年の夏に、八丈島に1カ月くらい滞在しているのね。当時コミューンって呼んでいたヒッピーのグループが八丈島にあって、そこに行ったんだよ。小阪修平とその奥さんと一緒に行ったんだよ。「思想としての全共闘世代」の著者だよ。
息子 ヒッピー・コミュニティだったの?
親父 そうだよ。O君という人がそのコミュニティのリーダーだったんだけどね。絵に描いたようなヒッピー姿で、あごひげを長く垂らしてね。彼を中心に、八丈島で十数人がテント暮らしをしていた。そこで、俺も何週間か暮らしたんだよね、何をしていたのやらまるで覚えていないけれども、とにかく毎日夕陽を見て暮した。で、何が言いたいかというと、俺は68年の3月までコミュニスト系組織の活動家であったが、その後168年の夏から69年の春に掛けて全共闘運動を一年間やり、その後ヒッピーコミューンの生活も体験した。そういう意味で、あの時代の全てを俺は経験しているわけね。
息子 俺の、統一協会の体験が、ものすごくまともな、大人しい生活に見えてきたんだけどね。
<ヒッピーから社長に>
親父 で、この時のヒッピーのリーダーだったO君っていうのに、小阪の葬式でほぼ40年振りに会ったんだよ。「おー酋長」だねって言ったら、「あーKさん」と言って久しぶりに話したんだけよ。で、彼が今何をしているか。ちょっと当ててみな。
息子 酋長、そのときのヒッピーね。
親父 かってのヒッピーのリーダーが、今何をしてるか。
息子 なんか、目茶苦茶資本主義に走ってそうだね。どっかでなんかの社長やっているとか?
親父 社長だよ。社長だけど、四国で、自然食品のお店を経営している。
息子 あー、はいはい。
親父 彼は一貫しているんだよ。そういう意味では。
息子 ああそうだね、なんかヒッピーというと健康的な感じが、自然的な感じがする。
親父 そう、自然食品や有機食品を仕入れたり生産したりして、店頭販売と通信販売をしている。四国ちろりん村っていう会社をやっているんだよ。
息子
息子 スローライフのままで生きている。それはいいね。
親父 彼は彼の生き方を貫いてきたなっていう感じがして、感動したんだけどね。
息子 社長は当たってたけど、でも中身が全然違ったね。
プロフィール
- 親父
- 1946年 岐阜県生まれ 1965年 県立岐阜高校卒業 1965年 東京大学教養学部文科3類入学 1669年 同大学中退 その後主として文筆関連業に従事して今日に至る。
- 息子
- 1974年 東京都生まれ 1993年 東京都立国立高校卒業 1994年 米国ウェストバージニア州立大学入学 1998年 米国ニューヨーク州立大学卒業 1998年 日系企業に現地採用で入社、米国CPA資格を取得 2003年 帰国、米国系IT関連企業に就職 2005年 フランス系化学関連企業に転職 2007年 米国系ヘッジファンドに転職 2009年 日系企業の欧州法人に勤務 現在ドイツ滞在中
- 手術結果
- 親父、2008年8月 肺がん手術 右肺上葉を切除。腫瘍の大きさは長径68ミリと大きかったが、浸潤・転移なし。2010年8月現在転移・再発せず。生存中。
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