小説
最終話 「優しくするから」
ひーちゃんは私の中で果てた後、丁寧に私の体を拭いてくれる。
そして、
「おいで」と左腕を広げる。
「うん」
ひーちゃんの側に、すべりこむように体を横たえる。
「目がとろんってなってて、可愛いよ」
ひーちゃんはそう言って、私をぎゅっと抱き寄せる。
可愛いよ……今夜、彼は何度その言葉を言ってくれたろう。
可愛いよ、好きだよ、 愛しいよ
ひーちゃんはシャワーのように、惜しみなく言葉をかけてくれる。
私は、「私もよ」と、返す。
私も……
なんだかとってつけたような軽い響きが、自分ではとても嫌だ。
けど、いつもひーちゃんに先を越されてしまう。
ひーちゃんは八つも年上だから、いつも私を小さな子供やペットのように扱う。
私たちには難しいことがたくさんあって、いつもいつも、ずぅっと二人でいることはできない。
だけど、私は、ひーちゃんといるときが一番幸せで、嫌なことも辛いことも、すべて忘れて彼に甘える。
私のすべては、ひーちゃんと逢う瞬間に向かっている。
口紅もマニキュアも、ダイエットもムダ毛のお手入れも、全部ひーちゃんのため。
人に向ける笑顔も言葉も、ひーちゃんへ贈る気持ちの練習台。
でも、エッチのあとの、とろんとした顔は、練習したってできゃしない。
こんな顔は、ひーちゃんの前だけだ。
私は、小さくなったひーちゃんのあそこを、おもちゃでも触るみたいにいじっている。
「あはは。だめだよ。また大きくなるよ」
ひーちゃんは笑いながら、右手で私の髪を撫でる。そして、
「ねえ、何か話して」
と言う。
「えーっとね……」
友達とケンカしたことを話すと、ひーちゃんは、
「君は悪くないよ」
と言い、仕事でミスをして、大切な書類を台無しにした話をすると、
「ドジだなぁ、でも可愛いよ」
と、目を細める。
ひーちゃんは私を甘やかしてばかり。
そのせいで、ますます私がダメ人間に育っているのを知らない。
でも、たとえ知っていたとしても、ひーちゃんは変わらないだろう。
いつか、ひーちゃんの前から、私はがいなくなる日が来たら、彼はどうなるんだろう?
彼が消えたら、私はどうなるんだろう?
そんな気持ちは全部閉じ込めて、ひーちゃんは私を甘やかし、私は彼にすべてを預ける。
「一緒に暮らせたらいいのにね」
「そうだね、きっと素敵だろうね」
切なさを埋めるように、ひーちゃんは私を強く抱きしめてキスをする。
そうして、じっと私の瞳を見つめて、
「もう一回する?」
「ひーちゃん、できそう?」
「できるよ。あたりまえだよ」
一緒にいる時間は、永遠の中で、ほんの一瞬。
光が瞬くようなその時間をつないで、私は、死ぬまで生きる。
ひーちゃん、大丈夫だから。
人は、死なない限り、生きていけるんだから。
「あそこが、少しひりひりしてる」
私がとろん顔で言うと、ひーちゃんはおでこにキスしてくれ、私の好きな声でつぶやく。
「大丈夫だよ、優しくするから」
心の中で、つぶやく。
私も。
私も、ひーちゃんに優しくするから。
生きてるかぎり、死なないかぎり、ずっとずっと……
永遠の中の、この一瞬の間、ずっと。
終
15/1
プロフィール
- Name
- 小宮山蘭子
- Birth day
- 9月2日(おとめ座)
- Blood type
- A
- Address
- 長崎
- ☆☆☆
- 小説投稿サイト「小説家になろう」を中心に作品を発表★『華神』にて公式企画「夏のホラー2009」人気投票1位★『嘘つきカレン』にて企画「犯罪が出てこないミステリー」大賞(2009)★『月を産む』長崎新聞掲載(2000)

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