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【声を嗄らす程に】


第五話〔偶然〕


温かい気温が漂う午後、大抵の生徒が机に突っ伏してしまっている中、由衣は黙々と黒板の文字をノートに書き写していた。
それに教科担任の言葉を加えていくと、自然と埋められていく白い隙間に一度意識を向かわせると、丁度その時に、授業の終わりを知らせるチャイムが鳴った。
その音に反応して、教卓の前にいた教員が正式な終わりを告げ、寝ていた生徒も徐々に起き上がる。


「由衣ー、今日買い物して帰らない?」
教科書類を机にしまっていると、一人の少女が声をかけてきた。
その少女は、日常的に由衣と行動を共にする事の多い、柏未来(かしわ みき)と言った。
肩まで伸ばした黒より少し茶色に近い髪を揺らし、楽しそうに目を細める。
そんな未来に、由衣は笑顔で振り向き、先の問いの答えを返す。
「うん、いいよ。何処行く?」
「あのね、Dynamiteってお店知ってる?」
二つ目のその問いに、少しの間思考を巡らせる。
「あ、最近できたとこ?でもあそこって確か、メンズショップじゃ…。」
「そう、彼氏の誕プレ買いたいの。」
幸せそうに笑う目の前の友人に、由衣も自然と目を細めた。



「由衣、こんなのどうかな?」
少し不安そうに、しかしどこか楽しげにそう聞いてくる友人に、由衣もつ同じ表情をしてしまう。
「んーどうだろう。もうちょっと明るい色の方がいいんじゃない?」
未来が手にしていたのは、紺色のクロスに、シルバーのガラスが埋め込まれたもので、それを首にかけた未来の恋人を想像し、思った事を口にする。
思い浮かべた未来の恋人は、明るく表情のコロコロと変わる、教室によく響く笑い声をもった人物だった。そんな人物には、紺色が似合わないわけではないが、なんとなく、もっと明るい色を身につけて欲しいと、由衣は思った。
「そっか…、あ、じゃこっちの赤は?」
未来はそう言い、同じ種類の色違いを今度は手にする。
「いいと思う。ねぇ、どうせならペアにしてみたら?」
「え、恥ずかしいよそんなの!」
「そうかな…。」
「由衣、お願いだからたまに天然になるのやめて。」
言葉のあとに、二人の笑い声が小さく響く。

「じゃ、私レジ行ってくるね。」
頬を薄らと上気させ、未来はレジに向かう。
その間、由衣は一人で店内を見回した。
その時、店の入り口が開き、数人の笑い声が入ってきた。その声の一つに、反射的に振り向いた。
「大和!」
驚きのままに、つい声を上げてしまう。
上げてしまってから、自身の声が以外に響いた事に口を抑えた。
「由衣!?」
先の由衣の声でやはり気付いた大和は、目を見開いていた。
「え、なんで…。」
そう言いかけたとき、買い物を終えた未来が由衣のもとにやってきた。
「由衣、どうしたの…?」
「あ、えっと…。」
口ごもった由衣と、由衣が明らかに気にしている目の前の人物を見て、未来は分ったとばかりに悪戯な笑みを浮かべる。
「なーるほど。まったく由衣は…そういうことはちゃんと言ってよねー。」
「へ…?」
「彼氏でしょ。もうそんな気まずくなんないでよ!私だって彼氏くらいいるしさっ。」
「あ、や…違っ。」
否定しようとする由衣など見えていないと、未来はきょとんとしている大和に声をかけた。

「初めまして。私由衣の親友で未来っていいます。彼氏さんのお名前は?」
「ぁ、俺、彼氏じゃないです……。えっと、一応、兄妹です…。」
もごもごと喋る大和の言葉に、未来は瞳を丸くする。
そして一度由衣に視線を戻すと、もう一度大和を見た。
「え、…じゃ、この人が由衣の言ってた……?」
未来の言葉に、由衣はこくんと頷いた。