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Report Of Devil May Cry


2014年 卒業論文



Devil May Cryについて
~悪魔も泣き出す男たち~



                  目次

はじめに

第一章 Devil May Cryの誕生
  ①開発の経緯
  ②シナリオの変更
  ③作品名の由来

第二章 Devil May Cryの特徴
  ①ゲームの概要
  ②スタイリッシュランク
  ③デビルハンターランク
  ④デビルトリガー
  ⑤BGM

第三章 Devil May Cryの魅力
  ①ストーリー
  ②世界観
  ③キャラクター
   (Ⅰ)ダンテ
   (Ⅱ)トリッシュ
   (Ⅲ)バージル
   (Ⅳ)スパーダ
   (Ⅴ)ネロ

第四章 Devil May Cryの意味
  ①正義に目覚めた悪魔
  ②人間と悪魔を区分するもの

おわりに 


◇

                はじめに

 2000年のPlayStation2の発売以降、TVゲームのビジュアル重視化は加速度的に広まっていった。それまでのPlayStationより遥かに描画能力の優れたハードウェアの登場で、TVゲーム界のグラフィックに対する認識が大きく様変わりした。その時代、確かに美しいビジュアルを誇る数多くのゲームがユーザーのもとへ届けられた。しかし、「ゲーム性」という点で新しさを打ち出せたゲームはどれほどあっただろうか。例えばアクションゲーム。ハイポリゴンのキャラクター達が、細かく描き込まれたリアリズムの極致とも言うべき背景の中で激しいアクションを展開する。だが、美しくはあれど、結局ひたすら敵をなぎ倒して進行するという、従来のアクションゲームから脱却できたタイトルは少ない。そこに現れたのが、「Devil May Cry」である。
 スタイリッシュ・アクション。Devil May Cryが掲げたジャンル名であり、以後シリーズの根幹をなすキーワードだ。プレイヤーは、ただ敵を倒すのが目的ではない。いかに格好良く=スタイリッシュに敵と戦うか。それがDevil May Cryの提示した、新しいアクションゲームのスタイルだった。[1]

 以上の文章は、『DEVIL MAY CRY FILM DVD BOOK the Trinity of Fates』で述べられたものである。今回の論文で私は、なぜこのDevil May Cryが人気を得たのか、その理由を詳しく掘り下げ、それについてまとめようと思う。私もまたDevil May Cryに魅了された一人であり、ゆえにDevil May Cryというものを底の底まで知り尽くしたいと考えたためだ。だからこそ、ゲーム本編では語られなかった不明瞭な部分を、関連作品やその他の参考資料を元にし、私独自の解釈も交えて明らかにしていきたい。なお、Devil May Cryシリーズは、初代Devil May Cry(以下、『1』)、Devil May Cry2(以下、『2』)、Devil May Cry3(以下、『3』)、Devil May Cry4(以下、『4』)、DmC Devil May Cry(以下、DmC)の計5作品あるが、第5作目であるDmCについては、この作品がこれまでのナンバーシリーズのストーリーとは繋がりのない、いわゆるリブートという位置づけであるため、ここでは言及しないものとする。また、Devil May Cryのキャラクターが他作品にゲストとして出演することも多々あるが、そちらについても言及はしない。ここではあえてDevil May Cryシリーズの枠組みの中で発生した問いについてのみ考察していく。 


        第一章 Devil May Cryの誕生

 Devil May Cryは、いかに格好良く敵を粉砕するか、を追求したカプコン(代表作、ストリートファイター、バイオハザードなど)の意欲作である。人間界への魔界の侵攻を阻止した伝説の魔剣士の血を引く主人公が長剣と拳銃を駆使し、派手でスタイリッシュな立ち回りにこだわった、爽快感あふれるアクションゲームだ。ハードの性能をフルに活かした美麗な映像や個性的な登場人物、迫力あるサウンドなどにより、世界中のユーザーから高い評価を得ている。[2]
 この作品に触れる前、まだアクションゲームというものをプレイしたことのなかった私の耳にさえ、その風聞は届いていた。曰く、ものすごいアクションゲーム。その評価に違わず、Devil May Cryというアクションゲームは容易く私のハートを、がっちりキャッチしてしまった。初めて手にしてから10年近く月日が経過してなお、これに対する情熱は冷めやらず、我ながら凄まじいものがあると思う。それこそ、こうして卒業論文の研究対象に選んでしまうほどに、だ。そんなDevil May Cryが、どのような経緯を経て誕生したのか、まずはその足跡を追っていきたい。

①開発の経緯
 Devil May Cryは当初、PlayStation2用のバイオハザードとして開発がスタートした。高性能の最新ハードでもって作るバイオハザードに対し、さらにプロデューサーである三上真司が新しさを求め、「これまでとは違った新しいバイオハザードにしてほしい」という命題が提示された。それは「フルモデルチェンジであっていいし、テーマが『恐怖』である必要もない」というものであった。その要望を受けたディレクターである神谷英樹は、まずはハードの性能を生かした映像と演出にこだわり、そうして『戦いの面白さ、カッコよさ』というメインテーマを打ち立て、そのテーマを実現できるのはアクションゲームだという答えを導き出した。結局、そのメインテーマが決まってからは、「新しいバイオハザード」という命題もそっちのけで、ただひたすら格好良さを追及した。つまりはアクション面に特化したゲーム性を追い求めたのである。その結果、プロデューサーの三上真司から「これは、もはやバイオハザードではない」という判断を下され、完全な新規タイトルとして開発が進むことになる。[3]Devil May Cryは、こうして最初の一歩を踏み出したのだ。

②シナリオの変更
 言うまでもないことだが、オリジナルタイトルへの変更に伴い、シナリオも書き直しとなった。ディレクターの神谷英樹は、テーマである格好良さを確立するためには、主人公の格好良さはもちろんのこと、敵の存在も重要だと考えた。敵が魅力的であってこそ、それを圧倒する主人公の格好良さがより引き立つからだ。そのため、バイオハザードの世界観における科学を基盤としたエネミーでは、スタイリッシュなアクションゲームを盛り上げるには役不足と判断され、もっと強くて見栄えのいい、それこそ悪魔のような敵を出すことを決定した。[4]
 Devil May Cryにおける悪魔、そして魔界という世界観が決まった瞬間である。

③作品名の由来
 開発予定だった「新しいバイオハザード」がオリジナルタイトルへと切り替わり、変更を余儀なくされたのはシナリオだけではない。新たなタイトルが必要となり、その第一候補として挙がったのが「Devil May Care」であった。その意味は「向こう見ずの」「意に介さない」というものであり、タフな主人公のイメージにマッチしていたが、同名の映画が存在することが判明し、あえなく改題することとなった。世界観を考慮し、ディレクターの神谷英樹は「Devil」という単語はどうしても使用したかったのだが、バイオハザードとイメージが重なるという理由で、それすらも無くなりかけたことがあったそうだ。[5]これはバイオハザードが日本国外において「Resident Evil」と表記され、語感が似ているためだと思われる。
 それでもディレクターの神谷英樹は「Devil」という単語を捨てきれず、また、それでいて深い意味のあるタイトルを模索した。そうして「Devil May Cry」というタイトルが考え出された。その意味は、「悪魔も泣き出す」というものである。このタイトルも一度は却下されたが、〝悪魔が泣く〟という言葉が本当に意味するところをディレクターの神谷英樹が会議で力説した結果、正式タイトルとして勝ち取ったのだった。[6]なお、この「Devil May Cry」という言葉は、作品のタイトルを表すだけでなく、物語中においても非常に重要なキーワードとなる。それについては第四章にて後述するものとする。

 
       第二章 Devil May Cryの特徴

 Devil May Cryは、爽快かつスタイリッシュなアクションを追及している。そのため、あえて使用弾数の制限を設けず、無意味とさえ思える挑発アクションを搭載することで、そのクールなアクション性に大きく貢献しているのだ。[7]また、激しいアクションの妨げにならないよう、ステージは非常に解放感のある広さに作成したり、リアルさよりも演出を重視した迫力ある戦闘シーンを作り上げるため、銃口からほとばしるマズルフラッシュもリアルなサイズから倍の大きさへと変更されたりしている。ここでは他にも、Devil May Cryでしか見られない特徴的なゲームシステムについて解説していきたい。なお、このゲームシステムはシリーズによって多少システムの名称と画面上の表示、性能などが異なるため、ここではナンバーシリーズ最新作の『4』を基準とする。また、ゲームを盛り上げていくために欠かせないものであり、Devil May Cryの特徴の一つでもある要素にBGMも挙げられるため、こちらについても言及していく。

①ゲームの概要
 Devil May Cryは、ミッションクリア型のアクションゲームである。ミッションを開始すると、まずはそのミッションでの目的が表示される。それに従ってプレイヤーはフィールド上を探索しながらミッションの遂行に必要なキーアイテムを入手したり、先へ進むための仕掛けを解いていくことになる。道中は強力な悪魔たちとの戦闘が発生するが、これをどう切り抜けていくかは本作の醍醐味の一つでもある。そうして敵を撃破しながら、ミッションごとに設定されている目的地へと移動。目標を達成し、みごとミッションをクリアすると、プレイタイムやレッドオーブの回収率などに応じてプレイ内容が評価される。ちなみにレッドオーブとは、主人公が新しい技を身につけるためや、[8]アイテムを購入する際に必要となる、一種の経験値のようなものである。悪魔を倒したり、鎧や机などのオブジェクトを破壊することで手に入る。また、前述で述べたように、これの回収率はミッションごとの評価対象となる。Devil May Cryは、戦うことで目的なので、敵を倒すことのメリットが必要だったため、この「オーブを集める」というシステムが搭載されたのだ。[9]

②スタイリッシュランク
 Devil May Cryの最大の特徴として、プレイヤーの戦い方を評価する、「スタイリッシュランク」と呼ばれるシステムがある。多彩な技を駆使しつつ、エネミーから攻撃を受けずに戦っていると、徐々にそのスタイリッシュランクが高まっていく。高評価を得ることができればエネミー撃破時のオーブがより多く出現したり、デビルハンターランク(後述)に好影響を及ぼすといったメリットがある。
 スタイリッシュランクの判定は、低いものからE、D、C、B、A、S、SS、SSSの8段階評価。ランクは画面右上に表示され、戦闘が始まると必ずEランクからスタートし、以降はプレイヤーの戦い方に応じて評価も上昇していくことになる。スタイリッシュランクは、おもにプレイヤーがエネミーを攻撃することで上がっていく。また、エネミーの攻撃を引きつけギリギリのタイミングで回避したり、エネミーの近くで挑発アクションを行ったりすることも高評価に繋がるポイントだ。ただし、同じ行動の繰り返しでは一定以上の評価を得られない。また、Eランクはゲーム内では非表示である。[10]

③デビルハンターランク
 各ミッションのクリア時には、リザルト画面にてプレイヤーのハンターとしての評価を示す「デビルハンターランク」が表示される。このランクは、ミッションに要した時間やオーブの回収率、倒した敵の数、スタイリッシュランクなどによって算出されるポイントの合計で決定。なお、デビルハンターランクは、D~A、Sの5段階評価となっている。[11]
 このランクはミッションごとに記録され、トータルリザルト画面において確認することができる。また、クリアしていないミッションは空欄となっているため、その時点でのクリア状況を知ることも可能である。

④デビルトリガー
 悪魔の血を引く主人公は、短時間だが悪魔の姿と力を得る能力、「デビルトリガー」を発動することができる。これは「悪魔の引き金」や「魔人化」とも呼ばれ、この能力を発動中は、攻撃力や防御力、行動速度といった基本能力が全体的にパワーアップする。また、体力が徐々に回復するといったメリットも得られるようになる。このパワーアップシステムも、Devil May Cryのゲーム性が持つ大きな特徴の一つであり、同時に世界観の表現であるとも言える。

⑤BGM
『DEVIL MAY CRY SOUND DVD BOOK THE SACRED HERAT』の後書きで、チーフ・コンポーザーの上田雅美は次のように述べている。Devil May Cryの迫力あるサウンドは、どのイベントシーンにおいても「徹底した映像との同期」を試みている。その手法、制作手順は映画と同様になってきている、と。[12]
 実際、ゲーム音楽と映画音楽はよく似ている。ゲームの世界観にプレイヤーを引き入れ、それぞれのシーンの臨場感を盛り上げつつストーリーの進行をバックアップしていくという役割も、映画と同様だ。ならばその手法、制作手順が近似化しても不思議ではない。しかし、映画音楽とゲーム音楽とでは重大な違いもある。映画は、一度スタートしたらエンディングまで一直線に進んでいくから、そのストーリーに沿って効果的な音楽を配置していけばいい。しかし、ゲームはそうはいかない。その進行速度はプレイヤーによって左右されるし、ステージをクリアするために同じシーンを繰り返しプレイすることもある。それだけに、ゲーム音楽は何度も繰り返しても邪魔にならず、しかも飽きのこない音楽である必要がある。音楽が主張しすぎると、プレイ意欲がそがれてしまうことが多い。かといって、無色透明の音楽では、ゲームの個性を伝えることができない。
 印象的でいて飽きが来ない。Devil May Cryは、その課題を見事にクリアした作品である。その特徴をいくつか紹介していきたい。魔界という世界観を出すため、重厚なバロック音楽を選択し、非常に厳粛な雰囲気を醸し出している。しかし、いざ戦闘になると激しいギターサウンドに一転するというのがDevil May Cryのサウンドのキモと言える。反復プレイの多い戦闘シーンを、プレイ中のライヴ感に優れながらも飽きにくいという特性を持ったテクノで表現し、それでいて主人公の存在感をヘヴィーなロックで引き立たせている。重量感がありながらもスピード感があり、より熱いギターサウンドにパワーあふれるドラムフレーズが戦いの激しさを表現している。また、ステージによって曲調を細かく合わせているなど、随所に細心の気遣いが見受けられる。悪魔の力が持つ圧倒感は、クワイアと壮大なオーケストラサウンドで表現されている。あえてキャッチ―なイメージソングや主題歌を置くのではなく、音楽そのものにゲームのコンセプトを表現させたことが、Devil May Cryの音楽を優れたものにしているのだ。[13]
 日本のラップグループ『スチャダラパー』のBoseは、公式サイトのインタビューにおいて、ミュージシャンの視点からDevil May CryのBGMとゲームの相性について質問され、こう答えている。
「ゲームがゴシック的というか悪魔的な雰囲気なので、ヘヴィーなロックは合うと思います。アメリカというよりはロンドン的な、ヨーロッパなゴシックな感じがマッチしますよね」[14]


        第三章 Devil May Cryの魅力

 第二章では、おもにゲームとして見たDevil May Cryについて述べた。それでは次に、作品を構成する世界観や設定について触れていきたい。シナリオの奥深さや個性的なキャラクターもまた、Devil May Cryの大きな魅力であるからだ。ここでは主立ったキャラクターのプロフィールを明らかにしていくことに最も重点を置いた。公式の関連書籍の資料を適宜参考にし、それでも不明瞭な部分は独自の解釈を交えて考察していきたい。また、それに並行してキャラクターが物語にどのような形で関連していくのかも述べていく。

①ストーリー
 ナンバーシリーズである4作品は、すべて明確な繋がりがあり、時系列順に並べると『3』『1』『4』『2』といった流れで物語が展開していく。『1』『2』『3』では共通の主人公が、『4』では新たな主人公が登場し、魔界から人間界に現れた悪魔やそれに与する悪しき人間と戦っていく、というのが大まかな物語の概要だ。では、簡単にあらすじを紹介していこう。次の文は『デビルメイクライ 完全攻略ガイド』から一部抜粋したものである。

 2000年前、魔界の帝王ムンドゥスは人間界制圧の野望を抱いた。だが、ひとりの悪魔が正義に目覚める。悪魔の名はスパーダ。彼はただひとり剣を取り、人のために戦った。その活躍は凄まじく、魔帝の野望は潰えることとなる。激闘から2000年……。スパーダはすでに亡く、その伝説も人々の記憶から消えた頃、魔界は再び甦ろうとしていた。[15]

 Devil May Cryは、上記の文章で登場した魔剣士スパーダの血を引く主人公が、人間界に出現を果たした悪魔を倒していく、というストーリー展開で進行する。ここでは主人公は善の存在として終始立ち回り、その相手となる悪魔は完全な悪の存在と捉えることができる。つまり、勧善懲悪の王道なストーリーであるため、シンプルで話がわかりやすく、だからこそ印象深いものとなっている。また、単純でありながら掘り下げるごとに奥が深く、味わい深いシナリオであるからこそ、世界中のユーザーたちは魅せられているのだと言える。Devil May Cryは善と悪の定義を明白にし、それら二つを区分するものは何かについてスポットライトを当てているメッセージ性の強い作品でもあるからだ。第一章の最後でも述べたが、そのことについては第四章で詳しく述べるものとする。

②世界観
「悪魔」と「魔界」というキーワードが物語の中核をなすDevil May Cryであるが、かといって舞台背景は同様のキーワードを持つ他のメディア作品と違い、まったく現代的である。銃器や自動車といった近代機器も登場し、ヴァチカンやアメリカといった実際の地名すらしばしば散見される。『2』の舞台候補には、いっときニューヨークの使用も案に挙がったこともある。[16]のちにDevil May Cryの世界観は、『現代だが、どこにも存在しない世界』ということで統一され、すべてのシリーズにおいて作品独自の地名が使用されることになった。こういった現代然とした世界に悪魔が出現するという一見ミスマッチな組み合わせが、人気を呼んだと考えられる。これは「悪魔」という超自然的な存在に、現代の主流兵器が通用するのか、などという賢しげな疑問に対し、ディレクター・神谷英樹の「いくら悪魔でも、ショットガンやグレネードを食らったら、たまらないだろう。人間様の文明を舐めるな」という考えをそのまま物語に反映したことが奏功した結果と言える。[17]
 次は、このDevil May Cryにおける悪魔の定義を明らかにしておきたい。悪魔といえば、「邪悪な存在であり、人間に対する憎悪を際限なく抱いている」というのが一般的な考えである。これはDevil May Cryの世界においても共通である。しかし、実際の宗教学や悪魔学で記されているように、「神に反逆した天使が地獄に堕ち、悪の存在として転生した存在」などとは定義されておらず、その起源については一切言及されていない。また、超自然的な存在ではあるが、これを退治する悪魔狩人――デビルハンターという仕事が稼業として成立していることから、「しばしば人里に出没する危険な猛獣」といったニュアンスが強い。悪魔にとっても人間は餌に過ぎないため、そのように扱われている。また、人間界と魔界を繋ぐ道は基本的に閉ざされており、その隙間を通れるほど小さく脆弱な悪魔は往々にして実体を持っておらず、古びた人形や寄り集めた砂などに取り憑いて活動する。[18]つまり人間界の物質に依存しているため、銃器類での破壊が充分に可能なのである。これは上記の「悪魔に現代兵器が効くのか?」という疑問にディレクターの神谷英樹が出した答えを説得力あるものにしただけでなく、銃で悪魔をクールに撃ち倒していくDevil May Cryの爽快感に繋がる形となった。さらに悪魔は一般的には「存在しないもの」とされているものの、これの退治をしてほしい旨の仕事を、ハイウェイ管理局という公的機関が依頼したことから、非公式ではあるがある程度その存在は認知されているものと言える。こうして現実ではありふれた身近な諸々を引き合いに出し、そこに悪魔の存在を巧みに組み合わせたことで、ユーザーたちをDevil May Cryの世界観に引き込むことに成功したのだと考えられる。
 そんな悪魔が生息するのは、魔界という文字どおり「悪魔の棲む世界」であるため、『地獄の住人』と呼称されることもある。しかし、Devil May Cryに登場する悪魔の中には、ジベットやファラリスの雄牛といった実在する拷問器具が、人間の負の思念によって悪魔化したというものも登場する。これは人間界で発生した悪魔であるため、『地獄の住人』という枠組みに収めることはできない。なので『人間に害をなす邪悪な存在』と定義するのが賢明であるので、あえてここで指摘しよう。また、作中では「悪魔のような人間」が登場し、同時に「人間のような悪魔」も登場する。こうして善と悪の存在を明確に分別し、善が悪に挑むという意味と理由を見出すのが、Devil May Cryのシナリオが持つ本質と言える。

③キャラクター
 物語を彩る重大なファクターとして欠かせないのが、キャラクターの存在である。独特の世界観に馴染み、それでいて強烈な存在感を放つキャラクターを生み出した作品が、良作として評価されるのである。Devil May Cryもその例に漏れず、個性的な登場人物が人気を呼び、作品の名を世に知らしめた要因の一端を担っている。ここではDevil May Cryのキャラクターについて設定や物語中の役割を補足し、不明瞭な部分については独自の解釈も交えて解き明かしていこうと思う。

(Ⅰ)ダンテ
 伝説の魔剣士スパーダと人間の女性の間に生まれた、悪魔と人間のハーフ。いわゆる半人半魔の存在である。ゲーム本編では『1』~『3』の主人公を務める。アメリカ人であるが、その名前の由来は、イタリア文学の最高峰『神曲』の主人公にして作者でもあるダンテ・アリギエーリから来ている。ダンテは悪魔のハーフという設定であるため、一般的ではなく神秘的な響きのある名前が相応しいとされ、この名前が使用された。[19]そのダンテという名前と、作中ではエンツォ・フェリーニョというイタリア人の友人を持つことから、おそらくイタリア系アメリカ人であると推測できる。容姿は銀髪碧眼、真紅色のコートを着た屈強な男である。身長は190センチだが、年齢についてははっきりとした公式の発表はない。アメリカ人ゆえかピザとストロベリー・サンデーを嗜好し、その一方でタバコを嫌う。これは「本当のイイ男なら、タバコという小道具がなくても格好良くなくてはならない」という設定の表れである[20]。しかし、その食の好みと相まって「子供っぽい」というイメージに繋がり、そしてダンテの見た目とのギャップもあって、当初予定していた魅力とはまるでベクトルの異なる魅力へと昇華され、定着したのであった。
 伝説的な悪魔の血を引くがゆえに常人離れした強靭な肉体を持ち、心臓を突かれた、脳を撃ち抜かれた、などという程度で死ぬことはない。この設定は、まだDevil May Cryがバイオハザードの新作として開発中だった頃、ディレクターの神谷英樹が考える格好良い主人公像が「人智を超えた能力を持つ不死身の男」であったので、それが新規タイトルに変更されてからも反映された結果だと考えられる。しかし、歳の取り方は人間のそれと大差なく、寿命も平均的な人間と変わらないことが窺える。
 常に余裕を持ち合わせ、いかなる強敵が相手でもニヒルな笑みと挑発的な軽口を忘れない。これはダンテの己の力に対する自信の表れであり、彼自身の美学でもある。父の形見である大剣と二丁拳銃を駆使し、あまねく悪魔をなぎ倒していく。その圧倒的な強さと不敵な態度が人気を呼び、Devil May Cryの持つ爽快感に繋がる形となった。これは神谷英樹が一貫してこだわった「カッコよさ」というテーマが評価された結果でもある。
 悪魔の血を持つため、短時間だが任意で悪魔の姿と力を発揮することができる。その際、真紅色のコートは肉体と同化し、強靭な外皮と化す。そのため見た目はまさしく赤い悪魔といった風情であるが、時系列的には最新のダンテを描いた『2』では、赤ではなく黒を基調とし、そのうえ翼が生え、より悪魔として完成された姿となっている。これは歳を取れば取るほど衰えていく人間とは違い、年月を重ねれば重ねるほど強力な存在になっていくという悪魔の特性の表現であると思われる。
『1』本編の20年前に、魔王の配下に母親を殺され、悪魔に対する復讐を決意する。つまり、かつて人間を救ったスパーダと違い、人間を守るためでなく、己の憎悪と母の無念を晴らすために悪魔と戦うのである。ストーリーとしては極めて単純で古典的な動機であるが、このことが悪魔の血を引きながらあまりに人間らしいダンテのパーソナルを確立させた。ダンテは当初、正義ではなく復讐のために戦っていることに後ろ暗さを感じていたらしく、そのことを指摘されて動揺する場面も見せている。[21]このように単純に善と悪が戦うだけでなく、善の存在が悪と戦う理由について葛藤する姿を描いているのも、Devil May Cryひいてはダンテの魅力だと言える。人間でありながら悪魔でもある、つまり善にも悪にも転がる可能性を大いに孕んだダンテの出自も、より物語を奥深いものにしている。のちにトリッシュ(後述)に身を呈して窮地を救われた際、その母親を彷彿とさせる姿を見て、復讐のためではなく、愛する者を失った、あの悲劇を繰り返さないために戦うのだということに気づき、真の力に目覚める。[22]Devil May Cryはアクション面に特化したゲーム作品というだけではない。主人公の人間的な苦悩や成長を、その世界観から来る独特の観点から描いたドラマでもあるのだ。
 母親を奪われた頃、まだ幼く未熟だったダンテは、父の形見である大剣から忠告の言葉を受け、悪魔と対等に戦えるまでその素性を隠し、トニー・レッドグレイブという偽名を使っていた。このトニー・レッドグレイブとは、まだDevil May Cryの世界観が決まる前、主人公の名前の候補の一つとして挙がったものである。この時の主人公はトレジャー・ハンターという設定であった。[23]
 トニー・レッドグレイブの名を騙ってからは、荒事全般を旨とする便利屋という職を通じて己を鍛える日々を送っていた。そうして力を高め、頃合いを見て素性を隠すことをやめてからは、表向きは便利屋として、しかしその実は悪魔絡みの依頼全般を引き受けるため、自分の事務所を構える。このときダンテは、母親の仇について「三つ目の大悪魔」ということしか知らず、それ以外に何も手がかりがない以上、手当たり次第に悪魔を狩り続けていればいずれ母親の仇にぶち当たる、と考えたためだ。ちなみにこの事務所の名前は「Devil May Cry」という。Devil May Cryは作品のタイトルを表しているだけでなく、作中ではダンテの事務所の名前として使用されてもいるのだ。また、この事務所は表向きには便利屋の体裁を取っているせいで、悪魔とは何も関係ない仕事が舞い込むことも多々あり、そういう一般の客と、そうではない本命の客とを区別するために、裏の世界に合言葉を流している。
 その後、紆余曲折を経て仇敵である三つ目の大悪魔、魔界の王その人と対峙し、これを撃破する。こうして母の仇を討ち果たしてからは、悪魔に対する憎悪の念も以前と比べるとなりを潜め、あくまで仕事として悪魔を狩っていくこととなる。とはいえ、やはりモチベーションの低下は著しく、事務所は週休六日を公言している。この時点でダンテはすでに作中最強の敵を倒し、その完成された強さと成長した人間性から開発陣に「証明するものが何もない」と判断され、そのせいで『4』では準主人公のポジションに甘んじることとなった。だが、これは同時に新主人公誕生の契機ともなった。[24]

(Ⅱ)トリッシュ
 作中での役割は『1』のヒロインである。ロングのブロンドヘアに見事なプロポーションが特徴的で、その容姿はダンテの母親に酷似している。その正体は、魔界の王に造り出された悪魔であり、電撃を操る。名前の由来は、「神曲」の登場人物である「Beatrice(ベアトリーチェ)」から来ている。ちなみに「神曲」で登場するベアトリーチェは、詩人ダンテの私生活でも関わりがあった実在の女性がモデルとなっているらしい。Devil May Cryでは「ベアトリーチェ」では長いということで、愛称のように「トリッシュ」と短絡化した。[25]
 服装は黒いレザーのビスチェとパンツを着用しており、胸の部分には稲妻型のスリットがある。これはスタッフの間で大変な好評を得ており、開発段階ではトリッシュにライダースのジャケットを着せていたが、胸のスリットが見えにくくなってしまったため、ジャケットの使用はなくなったという経緯もある。
 亡き母を彷彿とさせる容姿でダンテの興味と動揺を誘い、依頼という形でダンテを魔王の根城へとおびき寄せる。ダンテを陥れるために暗躍していたが、ダンテに命を救われたことで人間的な情緒に目覚め、ダンテが魔王の攻撃で窮地に陥った際は身を呈してダンテの身を庇った。これがきっかけでダンテの魔王に対する怒りは頂点に達し、ダンテが真の力に目覚める引き金となった。この過程でダンテの戦いの目的は「家族を奪った悪魔に対する復讐」から「愛する者を失った悲劇を繰り返さないため」にシフトしており、ダンテの人間的な成長はトリッシュなしでは起こり得なかったと言える。
 また、魔王の攻撃からダンテを庇った際にトリッシュは命を落とし、その後、意図せぬ形ではあったがダンテの剣の力によって復活を果たす。これはメルヘンの観点でいう『死と再生』を暗示している。一度死んでまた生き返ることは、二度目の誕生を意味する。人類学でいう通過儀礼と同じであり、それまでの不完全な自己を殺し、さらに高い次元の存在として生まれ変わるのである。その過程を踏まえたトリッシュは、自らの在り方を悪魔から人間へと変えた。つまり悪魔よりも人間のほうが優れていると証明したのである。なお、何をもってトリッシュの在り方が悪魔から人間へと意味合いを変えたかについては、こちらも第四章で明らかにしていくものとする。

(Ⅲ)バージル
 魔剣士スパーダと人間の女との間に生まれた、ダンテの双子の兄。しかし、関連書籍によっては弟と誤記されている場合もある。[26]名前の由来は、こちらも「神曲」の登場人物であり、古代ローマの詩人でもある「Vergilius(ウェルギリウス)」から来ている。バージルとはウェルギリウスの英語読みである。後ろに撫でつけた髪型以外の外見的特徴はダンテと瓜二つであるが、その顔つきはダンテよりも若干怖い造りとされている。ダンテと同じく常人離れした肉体と戦闘能力を持っており、弟よりも先に悪魔の力に目覚め、それを使いこなしていた。服装はダンテとは正反対の青いコートを着用している。これはダンテのライバルという立ち位置のため、青色を用いることで安直的だが対照化を図ったのである。[27]
 ダンテと同様、人間でも悪魔でもない自分に劣等感を抱いており、そのため「力」に対する執着が強い。その執着がバージルの人生の指針を決定づけ、彼はダンテと違って人間としてではなく、悪魔として生きることを決意する。力こそ全てと考えており(これは悪魔の不文律に相当する。[28])、目的のためなら手段を選ばない非情なまでの冷酷さを持つ。亡き母を中心とした人間の存在を侮蔑しており、そのため人間の主流武器である銃火器の類は使用しない。また、ダンテと違って人間の命を奪うことにも抵抗はなく、たまたま因縁をつけてきた複数の人間を一切の躊躇もなく斬り捨てている。父の形見である日本刀を使用し、これは後に『4』の主人公の手に渡る。
 最強の悪魔である父スパーダを、憧れると同時にいつかは越えなければならない存在として見ており、スパーダが残した足跡を追って各地を転々としている。その過程で娼婦との間に子を成していたことが後に判明した。魔界に父の力が眠っていることを突き止めたバージルは、それとは知らず魔界の鍵を所持しているダンテに接触し、袂を分かった弟と三度にわたって激しい戦いを繰り広げる。最終戦ではスパーダの遺した剣を巡ってダンテと魔界で激突し、敗北。しかし己の負けを認めず、ダンテから伸ばされた手を自ら振り切る形で魔界に取り残される。その後、復活を遂げた魔界の王に偶然出くわし、父親の業績を超えるため戦いを挑むも力及ばず、命を落とす。バージルの骸は魔界の王に利用され、人格も心もない哀れな操り人形として復活した。その後、魔王の根城でダンテとまたも三度にわたって死闘を繰り広げ、ついに弟の手によって引導を渡される。兄の二度目の死は、ダンテの悪魔に対する復讐心を新たにさせる結果になった。

(Ⅳ)スパーダ
 二千年前、魔界の侵攻から人間界を守り抜いた伝説の魔剣士。ダンテとバージルの父親。シリーズを通してのキーパーソン。その業績は伝説として語り継がれ、現代では児童向けの御伽噺として語られている。その名前の由来は、イタリア語で〝剣〟を意味する「Spada」から来ている。しかし、アメリカ人が発音しにくいという理由で、〝r〟を入れて「Sparda」という固有名詞となった。[29]
 どのような経緯でスパーダが正義に目覚め、魔界に反旗を翻したのかは不明。その理由は諸説あり、並の悪魔にはない知性があったからこそ、とも、ただの気まぐれとも言われている。魔界にいた頃は高名な大悪魔で、一部の悪魔からは憧憬の対象でもあった。魔界の王が魔界を統治できたのも、その右腕としてスパーダが活躍したからだと言われている。だからこそ魔界を裏切ったことへの同胞の失望と憤怒は凄まじく、その因縁は二千年という年月が経過してもなお息子のダンテに降りかかっている。
 魔界を封じてから約二千年後、魔界復活のタイミングを見越して人間との間に子供を成し、自らの卓越した剣技を息子たちに仕込んでいる。それから、いくつか所有する剣の中でも特に強力な二振りをダンテとバージルに授け、ある日を境に行方をくらます。その後の消息は一切不明。生きているのか死んでいるのかも、まったく明らかにされてはいない。そうしてスパーダが家を不在の間に魔王の配下が襲来し、母親を殺されたことがダンテとバージルの生き方を決定づけた。だが、このことに対してダンテはべつだんスパーダを恨んではおらず、むしろ戦うための力とともに未来を託され、弱者のために戦った父の魂を受け継いだことを誇りに思っている。

(Ⅴ)ネロ
 ナンバーシリーズ最新作『4』で新たに登場した主人公。魔剣士スパーダの血筋であるが、捨て子の孤児であるため自らの出生の秘密を知らず、いきなり目覚めた悪魔の力に当初は困惑していた。『4』本編の一カ月前に悪魔との戦いで右腕を負傷し、それが原因で右腕が「悪魔の右腕」に変貌してしまう。捨て子である出自のためか、厭世的で他者を寄せつけぬ人格を形成し、恐ろしい見た目の「悪魔の右腕」の存在も相まって、しばしば自暴自棄な気質を見せている。作中でスパーダの血族であることが判明し、長らくその正体についてファンの間で議論が交わされていたが、のちに発売された『デビルメイクライ 3・1・4・2 グラフィックアーツ』において、実はバージルの息子であることが明らかになった。[30]つまりダンテとは叔父と甥の関係になる。作中では顔も名前も知らぬ父の日本刀が、紆余曲折を経て息子ネロの手に渡ることとなった。
 名前の由来は、かつてキリスト教徒を弾圧した暴君ネロから来ている。『4』の概要は、邪悪な信仰組織をネロが壊滅させるという筋書きであるので、それをかつてキリスト教徒を弾圧した暴君に喩え、やや皮肉を込めてネロという名前に決定したのである。[31]
 ネロもまた悪魔の血を引くため、悪魔の力を解放することで魔人化することが可能である。しかし、ダンテやバージルとは違い、ハーフではなくクォーター、つまり悪魔の血が薄いため、見た目が悪魔の姿に変貌することはない。自らの背後に、「もう一人のネロ」と呼ばれる悪魔の上半身のみを半実体化させることが現状の限界のようである。しかし、その力と潜在能力は計り知れず、ダンテをして「パワーだけなら俺より上」と言わしめた。
 作中、ネロは魔剣士スパーダの血、つまり強力な悪魔の力を持つために、人間の造り出した巨大な悪魔の動力として取り込まれてしまう。その後、ダンテの助力と剣の力によって肉体を取り戻し、復活を果たす。トリッシュの項目でも述べたが、これはメルヘンでいう『死と再生』を暗示しており、この通過儀礼のプロセスを経て、ネロはより高次の存在として新生したと言える。実際、復活を果たした後は、それまで忌まわしく思っていた「悪魔の右腕」を含めた全てが「ありのままの自分」であると受け入れ自己を確立し、作中最後の敵を苦もなく圧倒している。


      第四章 Devil May Cryの意味

 ここまで、Devil May Cryのゲーム的特徴や、その他の人気の理由としてシナリオやキャラクターというファクターについて見てきた。では最後に、最初にして最大の疑問、なぜタイトルが「Devil May Cry=悪魔も泣き出す」なのか、その理由を明らかにし、そこから私がどのような考えに至ったかを述べることで結論とし、この論文を終えようと思う。

①正義に目覚めた悪魔
 第三章で取り上げたように、物語を通してキーパーソンとなっているのが、魔剣士スパーダの存在だ。悪魔でありながら、人間のために戦った伝説の魔剣士。そもそも悪魔とは何か。それは邪悪の所業を為す言葉に他ならない。悪徳を美徳とし、正義を毀つ諸悪の根源。悪の体現者。では、そんな悪魔が正義という心を知り、悪とは正反対の立ち位置にシフトした場合、それは悪魔のままであるのか。答えは否であると思う。もちろん正義の心を知ったことでスパーダの存在そのものが悪魔でなくなるわけではない。しかし、その在り方はもはや人間のものであると言える。無論、人間だから必ずしも正義の存在であると判断するのは安易で危険極まりない考えであるが、スパーダに関しては完全な正義の存在として見てもいいのではないかと思う。スパーダは正義に目覚める前、魔界では名の通った大悪魔であった。つまり悪の何たるかを知り尽くしたと言ってもいい存在だったのだ。だが、悪という正反対の概念を知るからこそ、それを対比の対象としたことで正義の価値に気づいたのではないか。汚いものを知るからこそ、キレイなものの価値を真に理解できるように。そうして悪の存在でありながら正義を選択したスパーダは、そのことによって悪の存在ではなくなった。彼は悪魔でありながら人間となった。スパーダの存在は、Devil May Cryのシリーズを通して一つのテーマとなっている「善と悪とは何か」ということを疑問とし、その意味を世に問うているのである。

②人間と悪魔を区分するもの
 人間と悪魔、善と悪の区分けについて明らかにしたところで、それをさらに後押しする要素について言及したいと思う。その後押しとは他でもない、Devil May Cryという言葉の意味に隠されている。これを日本語訳すると、悪魔も泣き出す。これは、ひとつにはダンテの悪魔殺しの所業を意味している。悪魔など屁とも思わないダンテの、あまりにも無慈悲な悪魔狩りに、さすがの悪魔も泣き出すというわけだ。[32]だが、もうひとつには悪魔が泣く、つまり涙を流すということの意味について触れていきたい。『デビルメイクライ 解体新書』の巻末にて、ダンテは次のように語っている。

「俺に狩られて、悪魔どもは哭き喚く。だが、心のないヤツらには泣くことができない。感情を高ぶらせて流れ落ちる涙は、他人を想う心を持つ人間の特権であり、証明なのだ。もしも涙が流せたなら、そいつはもう悪魔なんかじゃない」[33]

 この台詞を見た時、私は「血も涙もない」という言葉を連想した。これは冷酷非情なものの喩えとして用いられる。おもに独裁者や重犯罪人を指して使用することが多い。多分に偏見が入るが、おそらく彼らは泣いたりしないのだろう。なぜなら流す涙がないから。つまり正義の心がないからだ。これは悪魔に相当すると言っていい。人間のような悪魔もいれば、悪魔のような人間もいる。まさにその通りである。われわれ人間はもっと、涙というものの意味について深く考えるべきではないか。善と悪の存在を見分けるためにも。Devil May Cryという言葉の意味を考えた時、私はそのような答えに至った。


      おわりに

 今回、卒業論文を書き終えてみて、私が愛してやまないテーマを扱うことができ、感謝の気持ちでいっぱいである。残念ながら字数制限の関係で研究成果を漏れなく論述することは叶わず、まだまだ書き足りない気持ちがないと言えば嘘になるが、おおむね満足である。また、それ以上に卒業論文という大仕事を終えたことに大きな達成感を覚えている。この論文を書く上で、Devil May Cryについて細部まで考察することができ、より知識理解を深めることができた。これからもDevil May Cryをプレイし、その魅力に触れていきたい。また、私のようにDevil May Cryのメッセージについて考察を試みる方が出現してくれれば同好の士として幸いである。
 最後に。
 このような無謀極まりない卒論テーマを快く了承してくださった指導教員の■■■■先生には、この場を借りて感謝の言葉を申し上げたい。本当にありがとうございました。



参考資料表

【参考文献】
・ 後池田真也著, カプコン監修, 『Devil May Cry』, 角川文庫, 2002年
・ 後池田真也著, カプコン監修, 『Devil May Cry 2』, 角川文庫, 2003年
・ 森橋ビンゴ著, カプコン原作, 安井健太郎小説ストーリー協力, 『デビルメイクライ4 -Deadly Fortune-1』, 角川スニーカー文庫, 2009年
・ 森橋ビンゴ著, カプコン原作, 安井健太郎小説ストーリー協力, 『デビルメイクライ4 -Deadly Fortune-2』, 角川スニーカー文庫, 2009年
・ 野間佐和子発行, 『デビルメイクライ 最強デビルハンター』, 講談社, 2001年
・ ファイティングスタジオ編著, カプコン発行, 『デビルメイクライ 完全攻略ガイド』, 双葉社, 2001年
・ スタジオイベントスタッフ企画・構成・執筆, 佐久間亮介執筆協力, 三井大輔編集, 持丸一昭デザイン監修, キューファクトリー本文デザイン, カプコン監修・協力・発行, 『デビルメイクライ 解体新書』, エンターブレイン, 2001年
・ 中村寛文編集, カプコン発行, 『デビルメイクライ メモリアルアルバム〝Precious Tears″』, カプコン, 2004年 
・ 浜田勝己/長谷部勲/新岡優哉執筆, 中野敏幸編集, あとらす二十一制作協力, 竹下陽子/古川香苗校正, カプコン発行, 『デビルメイクライ2 公式ガイドブック』, エンターブレイン, 2003年
・ 野間佐和子発行, 『デビルメイクライ2 最強デビルハンター』, 講談社, 2003年
・ スタジオイベントスタッフ企画・構成・執筆, カプコン『デビルメイクライ2』開発チーム監修, 大野哲也編集, カプコン発行, 『デビルメイクライ2 オフィシャルコンプリートガイド』, デジキューブ, 2003年
・ 浜田勝己/森一将/新岡優哉構成・執筆, 水川達哉本文デザイン, 中里有吾デザイン監修, 川本裕編集,  古川香苗/坂口哲也校正, カプコン発行, 『デビルメイクライ3 公式ガイドブック』, エンターブレイン, 2005年
・ 千葉晋一執筆, 竹越菜々穂デザイン, 『デビルメイクライ3 コンプリートマスター』, カプコン, 2005年
・ 西浩樹/山城宏, 中村寛文編集, カプコン発行, 『デビルメイクライ4 ビジュアル攻略ガイドブック』, カプコン, 2008年
・ 長谷部勲/森一将構成・執筆, カプコン協力・監修, 浜村弘一編集, カプコン発行, 『デビルメイクライ4 公式ガイドブック』, エンターブレイン, 2008年
・ 中村寛文編集, カプコン発行, 『デビルメイクライ グラフィックファイル』, カプコン, 2006年
・ カプコン制作協力・資料提供・監修, 『デビルメイクライ3 設定資料集 NOTE OF NAUGHT』, エンターブレイン, 2006年
・ 高橋誠執筆, 野口新吾編集, カプコン監修・制作協力, 『デビルメイクライ4 Saber of savior』, エンターブレイン, 2008年
・ 皆本武士執筆, 中村寛文編集, カプコン発行, 『デビルメイクライ4 公式設定資料集 デビルズ・マテリアル・コレクション』, カプコン, 2008年
・ 萩原良輔編集, カプコン発行, 『デビルメイクライ 3・1・4・2 グラフィックアーツ』, カプコン, 2013年
・ 中村寛文編集, カプコン発行, 『DEVIL MAY CRY FILM DVD BOOK the Trinity of Fates』, カプコン, 2006年
・ 中村寛文編集, カプコン発行, 『DEVIL MAY CRY SOUND DVD BOOK THE SACRED HERAT』, カプコン, 2004年
・ 中村寛文編集, 『DEVIL MAY CRY SOUND DVD BOOK DANCE WITH DEVIL』中村寛文編集, カプコン発行,  中村寛文編集, 『DEVIL MAY CRY SOUND DVD BOOK RISING THE DEVIL』, 
カプコン, 2006年 
・ 茶屋町勝呂著, 『デビルメイクライ3 Code:1 〝Dante〝』, メディアファクトリー, 2005年
・ 茶屋町勝呂著, 『デビルメイクライ3 Code:2 〝Vergil〝』, メディアファクトリー, 2005年
【参考ウェブサイト】
・ 「Devil May Cry」(http://www.capcom.co.jp/devil/index2.html), 2001年
・ Devil May Cry 2 Magazine(http://www.capcom.co.jp/devil2/j/main.html), 2003年
・ Devil May Cry 3(http://www.capcom.co.jp/devil3/), 2005年
・ Devil May Cry 3 Special Edition(http://www.capcom.co.jp/devil3_se/), 2005年
・ DEVIL MAY CRY 4 デビル メイ クライ 4(http://www.capcom.co.jp/devil4/), 2008年
・ CAPCOM:Devil May Cry シリーズ公式サイト|Devil May Cry HD Collection(http://www.capcom.co.jp/devilmaycry/), 2012年
・ Devil May Cry(http://dmc-tv.com/), 2007年


          注


[1] 中村寛文編集, カプコン発行, 『DEVIL MAY CRY FILM DVD BOOK the Trinity of Fates』, カプコン, 2006年, p3より引用
[2] Devil May Cry(http://dmc-tv.com/), 2007年より引用
[3] 「Devil May Cry」(http://www.capcom.co.jp/devil/index2.html), 2001年より引用
[4] 野間佐和子発行, 『デビルメイクライ 最強デビルハンター』, 講談社, 2001年, p128より引用
[5] 「Devil May Cry」(http://www.capcom.co.jp/devil/index2.html), 2001年より引用
[6]  同上
[7] 中村寛文編集, カプコン発行, 『DEVIL MAY CRY FILM DVD BOOK the Trinity of Fates』, カプコン, 2006年, p3より引用
[8]ただし『4』だけはプラウドソウルと呼ばれるアイテムになる
[9] 中村寛文編集, カプコン発行, 『デビルメイクライ グラフィックファイル』, カプコン, 2006年, p77より引用
[10] 長谷部勲/森一将構成・執筆, カプコン協力・監修, 浜村弘一編集, カプコン発行, 『デビルメイクライ4 公式ガイドブック』, エンターブレイン, 2008年, p16より引用
[11] 浜田勝己/森一将/新岡優哉構成・執筆, 水川達哉本文デザイン, 中里有吾デザイン監修, 川本裕編集,  古川香苗/坂口哲也校正, カプコン発行, 『デビルメイクライ3 公式ガイドブック』, エンターブレイン, 2005年, p60より引用
[12] 中村寛文編集, カプコン発行, 『DEVIL MAY CRY SOUND DVD BOOK THE SACRED HERAT』, カプコン, 2004年, p44より引用
[13]  同上, p42より引用
[14] CAPCOM:Devil May Cry シリーズ公式サイト|Devil May Cry HD Collection(http://www.capcom.co.jp/devilmaycry/), 2012年より引用
[15] ファイティングスタジオ編著, カプコン発行, 『デビルメイクライ 完全攻略ガイド』, 双葉社, 2001年, p4より引用
[16] カプコン制作協力・資料提供・監修, 『デビルメイクライ3 設定資料集 NOTE OF NAUGHT』, エンターブレイン, 2006年, p88より引用
[17] 野間佐和子発行, 『デビルメイクライ 最強デビルハンター』, 講談社, 2001年, p128より引用
[18] 森橋ビンゴ著, カプコン原作, 安井健太郎小説ストーリー協力, 『デビルメイクライ4 -Deadly Fortune-2』, 角川スニーカー文庫, 2009年, p14より引用
[19] 「Devil May Cry」(http://www.capcom.co.jp/devil/index2.html), 2001年より引用
[20] 中村寛文編集, カプコン発行, 『デビルメイクライ グラフィックファイル』, カプコン, 2006年, p13より引用
[21] 茶屋町勝呂著, 『デビルメイクライ3 Code:2 〝Vergil〝』, メディアファクトリー, 2005年を参照
[22] 中村寛文編集, カプコン発行, 『DEVIL MAY CRY SOUND DVD BOOK THE SACRED HERAT』, カプコン, 2004年, p28より引用
[23] 中村寛文編集, カプコン発行, 『デビルメイクライ グラフィックファイル』, カプコン, 2006年, p21より引用
[24] 高橋誠執筆, 野口新吾編集, カプコン監修・制作協力, 『デビルメイクライ4 Saber of savior』, エンターブレイン, 2008年, p154-155より引用
[25] 「Devil May Cry」(http://www.capcom.co.jp/devil/index2.html), 2001年より引用
[26] ファイティングスタジオ編著, カプコン発行, 『デビルメイクライ 完全攻略ガイド』, 双葉社, 2001年, p113, p120を参照
[27] カプコン制作協力・資料提供・監修, 『デビルメイクライ3 設定資料集 NOTE OF NAUGHT』, エンターブレイン, 2006年, p13より引用
[28] 茶屋町勝呂著, 『デビルメイクライ3 Code:1 〝Dante〝』, メディアファクトリー, 2005年を参照
[29] 「Devil May Cry」(http://www.capcom.co.jp/devil/index2.html), 2001年より引用
[30] 萩原良輔編集, カプコン発行, 『デビルメイクライ 3・1・4・2 グラフィックアーツ』, カプコン, 2013年, p92より引用
[31] 森橋ビンゴ著, カプコン原作, 安井健太郎小説ストーリー協力, 『デビルメイクライ4 -Deadly Fortune-2』, 角川スニーカー文庫, 2009年, p244より引用
[32] 中村寛文編集, カプコン発行, 『DEVIL MAY CRY FILM DVD BOOK the Trinity of Fates』, カプコン, 2006年, p4より引用
[33] スタジオイベントスタッフ企画・構成・執筆, 佐久間亮介執筆協力, 三井大輔編集, 持丸一昭デザイン監修, キューファクトリー本文デザイン, カプコン監修・協力・発行, 『デビルメイクライ 解体新書』, エンターブレイン, 2001年, p319より引用
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