藤兵衛師の『文七元結』

2022年3月8日 21時03分06秒 (Tue)

さる1月29日、濹東キネマさん主催「彦六追善 桂藤兵衛独演会」にお邪魔してきました。
むかし家今松師匠との二人会のはずが、今松師、当日の予定をコロッと忘れて他の予定を
入れてしまったとのこと(笑)。結果、藤兵衛師独演にプログラム変更となりました。
 

『二人旅』枝次

『商売根問』

『羽団扇』藤兵衛

ー仲入りー
~彦六追善~『反魂香』(音声)

『文七元結』藤兵衛


私は『文七元結』を聴くときに、芸人の力量を測る基準として(エラそうですみません)、
佐野槌の女将をどう描くか、というところに注目します。
女性として柔らかみを含みつつも長兵衛に有無をも言わせぬ大見世のあるじとしての貫禄もみせ(旦那は亡くなっている)、お久の孝心にホロリとしつつ見せる優しさ、奥深い人物造型を求められるところですが、貫禄を出そうと気合が入りすぎるとイヤミになりかねないところを、藤兵衛師は抑制された描写で女将の色気、貫禄、優しさを絶妙のさじ加減で演じておられました。若手には到底できる芸当でなく、さりとて枯れすぎても味わいがない。実に良い加減の女将であったと思います。

女将が手文庫から五十両の入った財布を出させ「親方、これに見覚えがあるでしょう、亡くなった旦那様が好きで着ていた羽織の共布でこしらえたものだ」というくだりがあります。他の方の口演でも聴かれる描写かもしれませんが、聴いていてとても印象に残りました。佐野槌と長兵衛親方の関係性のよく分かる細やかさにグッとくるセリフです。

女将が長兵衛親方に「来年のみそかまでにお金ができなかったそのときは…私も鬼になるよ。この子を見世に出しますよ」といったセリフで釘をさす演出、藤兵衛師の噺にはそれがありません。商売人としての厳しさを感じさせるセリフではありますが、演じ手によってはどぎつく聞こえる懸念もあり、藤兵衛師の爽やかな芸風からいって、これはなくて正解かなと思います。

常々藤兵衛師は「吾妻橋で身投げしようとする文七を助けるくだりは、芝居になりすぎないように」とおっしゃいます。
噺の中でも有数の見せ場で、演じ手としても手いっぱいに演じたいところ、「さぁ私の芸をご覧ください」と芝居になっちゃうのは分かるけど、あまりに描写を克明にし過ぎて長兵衛の葛藤を深掘りすると、娘を吉原へ預けてまでこしらえた大金をあっさりと文七にやってしまうこととの矛盾が出てきてしまう。ここも芸人としてさじ加減を効かせたいところなのだと思います。

会の当日は悪天候、オミクロンが猛威を振るい始めて感染者激増という状況を受けて予約をキャンセルされるお客様も多く、入りのうすい会場ではありましたが、あの場に居合わせた皆様、現在生で聴くことのできる最高水準の『文七』に
出会えたことにさぞ満足して家路につかれたことと思います。
 

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雨休亭
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