藤兵衛師の噺

2023年1月9日 14時38分51秒 (Mon)

「藤兵衛会in北浦和 第5回」ご来場御礼

「藤兵衛会in北浦和 第5回」ご来場くださいまして誠にありがとうございました。
JR山手線工事影響による交通の混乱、主催者のお囃子音源忘れ、師匠は手ぬぐいを持たずに高座へ…など
ドタバタいたしましたが、なんとか初春の口開けを済ませることができましたこと、お客様のおかげでございます。
<当日の番組>
かつぎや
浜野矩隨
-仲入り-
浮世床(夢)

『かつぎや』は今回のようにはなっから終いまで演るとあれだけのボリュームのある噺で、
ほんのさわりだけをやることの多い寄席ではまず聴くことのないバージョンかと思います。
「プーアル茶訪問販売の珍さん」なんてフレーズを苦しみながらひねり出している師匠のお姿を
想像するとちょっとクスリとしてしまいます。

『浜野矩隨』は本日のメイン・イベント、JRのせいでお越しが遅れてもこちらに間に合えば
今日は御の字、というくらい皆様にお聴きいただきたかった噺です。
名人の苦心譚ということで、演じ手によっては人物造形が固くなりすぎ、雰囲気が重くなる割に
名人開眼に至る葛藤や経緯が伝わりづらい高座なども耳にしたことがあります。
藤兵衛師演じる若狭屋甚兵衛は軽妙かつ闊達、酒が入ると物言いが乱暴になる悪い癖が
活き活きと描写され、演じようにによっては陰気になってしまいかねない噺を大いに救っていました。
藤兵衛師匠という方は﨟たけた女性の描写についてたいへんに味わい深い造形を見せる方で、
矩隨のおっかさん、この人が出てくるだけで噺の格が一段も二段も上がるような気がいたしました。
母親の死をもって矩隨が開眼に至るというのが講釈本来の型ですが、肉親の犠牲をもって大目的が
達成されるという旧時代の価値観がいまどれほどの人々に受け入れられるものか、私は本日の
藤兵衛師の演出に大いに共感を持ちます。
貞鳳先生がこしらえたという「100m8秒」などというくすぐり、またご自身の体調にひっかけた
「ひざ関節症云々」の入れ事も楽しく、胸に迫る描写もありながら軽妙さも交えて一気呵成に語りきり、
「怠らで往かば千里の果ても見ん 牛の歩みのよし遅くとも 精神ひとたび至れば何事か成らざらん…」
という長いフレーズは師匠としてもやや照れるところらしいですが、最後にチョォンと柝を入れたくなるような
格好よさで、会心の一席をお楽しみいただけたものと存じます。

『浮世床』は「夢」のくだりのみでお開きとなりましたが、それだけでも30分近くのボリューム、
ひたすら軽くバカバカしく、本日口演のなかった本や将棋のくだりなども、また改めてお楽しみいただく
機会もあろうかと思います。

次回「第6回」は3月18日(土)14時開演 『樟脳玉』ほか、季節がら春のお噺をお楽しみいただけるのでは
ないかと存じます。
年明け早々の一日を当会に割いていただき誠にありがとうございました。img_20230109-074223.jpg

2022年9月4日 14時19分24秒 (Sun)

第3回 藤兵衛会in北浦和 ご来場御礼

あいも変わらずズボラなサイトで、
ブログもほとんどほったらかしで
申し訳ございません。

「藤兵衛会in北浦和 第3回」、
メールアドレス等を伺っている
お客様には個別にご連絡して
おりますが、改めてご来場御礼
申し上げます。

会場の利用人数に制限があり、
今回お越し頂いた人数が上限
いっぱいのところで、かえって
演者との距離の近さ、生の音声で
聴く芸の魅力をお楽しみ頂けた
のではないかと存じます。

一席目『商売根問』
根問ものと呼ばれる噺もいくつか
ある中、出くわす頻度はそう多く
ないと思います。むしろ上方で
『鷺取り』の前半として聴かれる
方がお耳なじみがあるのでは。
前回の『色事根問』もそうですが
私、この手の「アホ」が登場する
無内容な噺が大好きです。

二席目『お化け長屋』
師匠もおっしゃってましたが今回
は「怪談噺を聴いてみたい」との
ご要望がいくつか寄せられており
どういう番組構成とするか一考を
要しました。
怪談噺といっても、その大半は
登場人物の因縁が織りなす陰々と
した世話狂言の世界で、発足後
間もない会の出し物としてはちと
尚早ではないかと考え、季節がら
お化けにまつわる演目を、という
ことで『お化け長屋』をお願い
した次第です。
これまたお調子者の馬鹿が勝手に
盛り上がる様がたいへんおかしく、
威勢の良い人物がお得意の藤兵衛
師匠の魅力が出た一席でした。

三席目『江ノ島の風』
これは初めて聴いた、という
お客様が多かったようです。
夏場の噺として師匠が大切に
なさっている噺のひとつで、
上方の『須磨の浦風』を、舞台を
江ノ島、紀州公をさるお殿様、
鴻池家を薩摩屋として江戸噺に
仕立て直したもの。
上方噺の悪癖である糞尿や
オナラにまつわるくどい描写は
極力抑えて、涼を求める遊びの
馬鹿馬鹿しさとスケールの大きさ
を強調した噺となっています。

当会のお楽しみのひとつは
聴いたことのない噺がときおり
番組に混じってくるところ。
雨休亭としてもあえて師匠に
特定の噺の注文をせず、当日の
お客様の雰囲気に合わせて
思いがけない噺をお出し頂く
楽しみを、皆様と共に味わって
行きたいと存じます。
 

2022年6月5日 10時34分39秒 (Sun)

ご来場御礼

「藤兵衛会in北浦和」第2回 無事終演いたしました。
ご来場くださいまして誠にありがとうございました。
~当日の演目~
『首の仕替え』
『らくだ』
『三人無筆』
鉄板の藤兵衛十八番から、東京では聴く機会のほとんどない
珍品まで、多彩な構成の番組となりました。

『らくだ』は藤兵衛師匠を追いかけていればいつかは出会う
十八番もの、威勢のいい奴情けない奴、酔っ払いと、
師匠がお得意とする人物造形が躍動しました。
「甚五郎の蛙」のフレーズは先代馬生師・談志師が演って
おられましたが、らくだに乱暴された悔しさをにじませる
あたりからの酔態の変化は、談志家元の力演を彷彿とさせる
迫力ある演出。くず屋の久さん、酒乱ぶりが最高潮に達したところで
焼き場のくだりまでいかずにスパッと切るのが藤兵衛流。

『首の仕替え』は『色事根問』からつなげることのできるいくつかの
噺のひとつで、他愛がないとのひと言で片付けてしまうには
もったいない奇想天外な小品。
とにかく登場人物のお馬鹿っぷりが突き抜けており、くだらないという
点では横綱級の噺ですが、端正な語り口の藤兵衛師がこういう噺を
やるところにたまらない楽しさがあります。
この『首の仕替え』につなげる形は東京では滅多に聴けるものではないので
今回お越しのお客様はちょっとした拾い物をした、といったところでしょうか。

前半の番組がたっぷりめでしたので、仲入り後は軽く楽しく『花色木綿』で、
という案もあったのですが、珍品好きの主催者の願いを受け止めてくださったようで
これまた珍品の『三人無筆』でお開きに。
「無筆」という言葉、字の読み書きができないという人物像がいささか
差別的、と受け止められるのか、楽しい噺であるわりにはめったに高座に
かからない噺の仲間入りをしてしまっているのは残念です。
「体で字を書く」などというフレーズのユニークさは落語ならではで、
ただ笑わせるだけでなく、豊かな言葉の世界に浸れるのも嬉しいことです。

次回開催は「8月11日」と設定いたしましたがお盆の行事と重なってしまうため
こちらにつきましては再考して改めて日程のご案内を差し上げたいと存じます。
 

2022年3月8日 21時03分06秒 (Tue)

藤兵衛師の『文七元結』

さる1月29日、濹東キネマさん主催「彦六追善 桂藤兵衛独演会」にお邪魔してきました。
むかし家今松師匠との二人会のはずが、今松師、当日の予定をコロッと忘れて他の予定を
入れてしまったとのこと(笑)。結果、藤兵衛師独演にプログラム変更となりました。
 

『二人旅』枝次

『商売根問』

『羽団扇』藤兵衛

ー仲入りー
~彦六追善~『反魂香』(音声)

『文七元結』藤兵衛


私は『文七元結』を聴くときに、芸人の力量を測る基準として(エラそうですみません)、
佐野槌の女将をどう描くか、というところに注目します。
女性として柔らかみを含みつつも長兵衛に有無をも言わせぬ大見世のあるじとしての貫禄もみせ(旦那は亡くなっている)、お久の孝心にホロリとしつつ見せる優しさ、奥深い人物造型を求められるところですが、貫禄を出そうと気合が入りすぎるとイヤミになりかねないところを、藤兵衛師は抑制された描写で女将の色気、貫禄、優しさを絶妙のさじ加減で演じておられました。若手には到底できる芸当でなく、さりとて枯れすぎても味わいがない。実に良い加減の女将であったと思います。

女将が手文庫から五十両の入った財布を出させ「親方、これに見覚えがあるでしょう、亡くなった旦那様が好きで着ていた羽織の共布でこしらえたものだ」というくだりがあります。他の方の口演でも聴かれる描写かもしれませんが、聴いていてとても印象に残りました。佐野槌と長兵衛親方の関係性のよく分かる細やかさにグッとくるセリフです。

女将が長兵衛親方に「来年のみそかまでにお金ができなかったそのときは…私も鬼になるよ。この子を見世に出しますよ」といったセリフで釘をさす演出、藤兵衛師の噺にはそれがありません。商売人としての厳しさを感じさせるセリフではありますが、演じ手によってはどぎつく聞こえる懸念もあり、藤兵衛師の爽やかな芸風からいって、これはなくて正解かなと思います。

常々藤兵衛師は「吾妻橋で身投げしようとする文七を助けるくだりは、芝居になりすぎないように」とおっしゃいます。
噺の中でも有数の見せ場で、演じ手としても手いっぱいに演じたいところ、「さぁ私の芸をご覧ください」と芝居になっちゃうのは分かるけど、あまりに描写を克明にし過ぎて長兵衛の葛藤を深掘りすると、娘を吉原へ預けてまでこしらえた大金をあっさりと文七にやってしまうこととの矛盾が出てきてしまう。ここも芸人としてさじ加減を効かせたいところなのだと思います。

会の当日は悪天候、オミクロンが猛威を振るい始めて感染者激増という状況を受けて予約をキャンセルされるお客様も多く、入りのうすい会場ではありましたが、あの場に居合わせた皆様、現在生で聴くことのできる最高水準の『文七』に
出会えたことにさぞ満足して家路につかれたことと思います。
 

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雨休亭
さいたま市および東京都内にて小規模の落語会を企画・運営してまいります。

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