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哀しき血脈

第二章
絵美

 恵は派出所で見た逆五芒星を気にしていた。
 動物を傷つけて作られた逆五芒星は既に完成していた。そして、その一点の近くに今回の死体遺棄現場がある。恵にはそれが偶然のこととは思えなかった。
 あの地図を作った三島は事件現場をただプロットしただけではなかった。それぞれの事件の発生日を記載していた。そのために五芒星という形が浮かび上がってきたのだった。 事件は全て日曜日の深夜、月曜日の早朝に起こっていた。確たる証拠もなく、犯人は見つかっていない。
 そして今回、人が犠牲になった。
 恵にはこれらの出来事が全く無関係だとは思えなかった。
「それで、嬢ちゃんはこの動物虐待と今回の事件が繋がっていると?」
 小島は考え込む恵に言った。
「ええ、動物虐待をしていた者が人を殺す、という例もあります」
「どんな例だ?」
「神戸の酒鬼薔薇聖斗の事件などがその例です」
「ああ、あの事件か…」
 小島も古い記録を探すように恵が言った事件を思い出した。
 酒鬼薔薇聖斗の事件とは、一九九七年神戸市で発生した連続児童殺傷事件のことを指していた。
 二月から五月にかけて五人の小学生が襲われ、二人が重傷を負い、二人が死亡した手いる。。最後の犠牲者となった少年に至っては死亡させた後にその首を切断し、切り取った首を鑑賞し、少年の血を飲み、中学校の正門前にその首を遺棄した事件である。
 その際に『さあゲームの始まりです』から始まる手紙を口に咥えさせて警察を挑発している。
 酒鬼薔薇聖斗とはその手紙に添えられた犯人の名前である。
 警察に逮捕された犯人は少年であり、その犯行の残忍さと犯人が少年であったという意外性から世間を震撼させた。
 この事件以前、付近では首を切られた鳩の死骸、首を切られた猫の死骸、両脚を切り取られた猫、腹を割かれた猫などが発見されている。
 少年はアンバランスな第二次成長期を過ごしており、これら残酷な行為を行うことによって性的な興奮を覚えたとされている。
 この事件の最中、少年は「実験ノート」と称する日記をつけており、その中で『バモイドオキ神』という『神』を作り上げていた。
「そうか、あの事件でも小学生達が襲われる前に動物虐待が行われていたな」
「そうです。彼の場合は動物を傷つけることで性的興奮を覚えていました。やがてそれがエスカレートして殺傷事件に及んでいます」
 恵はまるで目の前の資料を読み上げるように小島に説明した。
「しかし、動物虐待をする者が全て殺人を犯すわけではないんじゃないか?」
 小島は恵の説明を聞いて疑問を呈した。
「仰るとおりです。けれどもシリアルキラうーの中にはこのような経過を辿る者が少なからずいるというのも事実です」 
 恵の言葉がしんとした廊下に吸い込まれていく。
「それにあの五芒星です」
「?」
「あの五芒星が示すとおり、犯人は何らかの法則に従って犯行を犯しています。一つはその場所、もう一つは犯行の曜日。もし今回の死体遺棄事件の犯人が同一であった場合、やはり何らかの法則に則って犯行を行うはずです」
「しかし、それはまだわかっていない」
「その通りです。これは可能性の問題です。でもわかったときには遅いんです。次の犠牲者がでてしまいますから…」

 確かに恵の言うとおりだった。
 これまで起こった動物虐待事件と今回の死体遺棄事件との関連は今のところ見いだされていない。共通することは双方の現場が近い場所にあるという点と同じ曜日に行われているという二つの点だけだった。五芒星のルールに従っているのかは死体遺棄事件に関しては証明できていない。
 しかし一方でそれが証明されるためには少なくとももう一人、犠牲者が必要になるということだった。
 それを待つわけにはいかない。
 小島にしても恵にしてもその点では一致していた。
「なあ嬢ちゃん、仮に嬢ちゃんの言うとおりだとして、犯人の見当はつくのかい?」
「少なくとも、犯人の潜伏している地域は絞れると思います」
 恵は持っていたコーヒーを飲み干し紙コップを屑籠に投げ捨てた。紙コップは外れることなく屑籠に呑み込まれる。
「どういうことだ?」
「小島さん、あの五芒星の意味、わかりますか?」
 恵の目が悪戯っぽく輝く。
「五芒星は神や悪魔を召喚することに使われます。あの場合逆位置ですから犯人は悪魔を召喚しようとしていることがわかります。そして一般的には召喚された悪魔は五芒星の中心に現れると思われていますが、実際は償還する術者が五芒星の中心にいます。つまり、五芒星は償還したものから身を守る結界の役目をなすのです」
「そうすると犯人は…」
「五芒星の中心にいるはずです」
 恵の言うとおりだとするとこの情報はきわめて重要なものということが出来た。ただしこれは動物虐待の犯人と死体遺棄事件の犯人が同一であるという仮定に則った場合に有効なものだった。
 現在のところ恵のいうことは動物虐待犯の居場所ということになる。従って小島達が動くことは出来なかった。
 第二の事件は阻止したい、しかし小島達には手詰まりの状態だった。
 二人は同じ思いに辿り着き暫く押し黙ってしまった。
 その沈黙を小島が破った。
「そうか、あいつに捜査させればいいんだ」
「?」
「三島の奴だよ。動物虐待の方の犯人を早く見つけさせるんだ。もし同じ犯人なら第二の犠牲者を出さなくてすむかもしれない」
 小島はそう言うと胸ポケットから携帯電話を取りだして三島の番号を入力した。 
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