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ふるさとの抵抗

第三章
捜査

 天野恵理子殺害現場は凄惨な状況だった。
 殺害現場となった部屋中に血しぶきが飛び散り、そこには英里子の遺体らしいものはなかった。バラバラにされ、肉片が残っている骨があるだけだった。それは大きいものも小さいものも、不完全なものもあった。それが誰のものかすらわかるはずもなかった。しかし、通報した近所の住人が英里子の悲鳴を聞いていること、そして英里子と連絡が取れないことから被害者は彼女であろうと思われていた。
「こいつは酷いな…」
 刑事となって長い小島でさえも目を反らせたくなる現場だった。恵に至っては散らばった骨をまともにみることも出来ない。
「私もこんな現場は初めてです。」
 鑑識課員の岸田健二が小島のそばに来て呟いた。眼鏡の下の眼をしばだたせている。
「どうだい、何かわかったか?」
 小島はあまり期待をせずに岸田に声をかける。
「いや、正直なところまだ何も…。何しろこんな面妖な現場は初めてでして…」
 岸田も眼を白黒させて答えた。
「どうやったらこんな殺し方が出来るのかしら…」
 恵は窓の外を見て言う。現場に目を向けたくなかったからだ。
「こいつは人間の仕業じゃないかもしれないな…」
「といいますと?」
「動物の仕業じゃないか?肉食の奴さ」
 小島の言葉に岸田が合点がいったというような表情を見せる。
「でも、どこから来たって言うんです?そういう動物に関する通報などはありませんけど」
 確かに恵の言うとおりだった。
 この付近にはそのような動物のいる施設などなく、またそのような動物が逃げ出したとか、目撃したとかの情報もなかった。だからといってこの惨状を人間が作り出したとはとうてい思えない…。
「まさか…、な」
 小島の脳裏に奇妙な考えがふっと浮かび、すぐさま彼はそれを否定した。だが、そんな小島の変化を恵は見逃さなかった。
「小島さん、これって、もしかすると…」
「馬鹿なことを言うな。そんなものは存在しないんだ」
「でも、私たちは何度も…」
「それ以上は口にするな。それを認めてしまったら俺たちはこの被害者に何も出来なくなるんだ!」
 それは恵が初めて聞く小島の激しい言葉だった。
 恵は驚き、固まってしまった。そこへ岸田が近づいてくる。
「びっくりしましたでしょう?小島さん、ああなると手がつけられません。暫く離れていた方がいいですよ」
 岸田はそう言うとそそくさと恵から離れていった。
 いつもはのんびりとした印象を与えている小島にもこういった激しいところが眠っているのか、恵は思った。
「けれど、何だろうな。ここからは強い憎悪のようなものを感じるな…」
 小島が静かに呟いたのを恵は耳にした。
 小島の勘が働き始めた。

 森崎は途方に暮れていた。天野恵理子が殺されてしまったからだ。彼女に対する取材はまだ始まったばかりだ。ようやく彼女が行っていることがわかりだしたというのに、まだその心の闇を見いだすまでには至っていなかった。これでは取材が終わったとはいえない。しかし道は断たれてしまった。
 さて、どうしたものか。
 デスクに置かれたノートパソコンの画面を眺めて森崎は考えを巡らせていた。近所の住人たちはあまり英里子のことを好意的に見てはいない。仮に話を聞いても彼女にとって否定的なことしか得られないだろう。それでは困るのだ。一方的なことだけでは彼女の闇の部分はわからない。彼女も元は動物をかわいがる人間ではあったようだ。それが何故あのような行動をするに至ったのか。それを解き明かすことがこの問題を解明することになる。
 森崎はそう信じていた。
 どこかに道はあるはずだ。
 森崎は考えた。彼女は本当に独りきりだったのだろうか?どこかに彼女を理解する人間は居なかったのだろうか?
 そう考えることはとても難しいことだった。これまで森崎があった人たちはすべて英里子を否定する人ばかりであった。少しでも彼女を肯定しようとする人は居なかった。英里子が一時身を置いていた動物愛護団体の人で会ってさえ彼女のことを理解しようとはしていなかった。
 森崎は初めて英里子をかわいそうな人物だと思った。
 普通人間は誰かしらと関わりを持って生きている。本当の意味での孤独とはなかなかあり得ることではないはずだった。しかし彼女にはそう言ったつながりを見いだすことが出来なかった。
 それは単に周囲の人が彼女を否定していたからではないような気がした。英里子の方からも周りの人々を否定していたのではないだろうか?その理由が何か和は分からない。だがそこにこそ彼女の闇を解き明かすヒントがあるのではないだろうか?だとするならば、やはりもう少し英里子のことを調べる必要がある。
 そこまで考えたとき、森崎の脳裏にある考えが浮かんだ。
 今、遺体は警察の手にあるが、やがてそれは遺族の元に返されるはずである。その遺体を引き取った人物ならば、まだ森崎がつかんでいない英里子の人となりを知っているはずである。それならば彼女の葬儀の場がそのチャンスだった。今の時勢、自宅で葬儀を行う人はあまりいない。葬儀場やセレモニーホールと呼ばれる場所で行われるのがほとんどである。ならば、そこに網を張っていれば次の一手が打てるのではないか?
 森崎はそう思うとスマートフォンを散りだしてiタウンページにアクセスした。
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