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リリスの嘆き

第三章
蛇の目

 この横尾という男は何を言っているのだろう?すでに啓介は鏡美鈴という少女が鏡美里の娘ではないことを知っていた。そればかりか、美鈴が『紅い菊』という『もの』であることを示唆する現実もここまでくる間に見せつけられてきた。今更何があるというのだ?啓介の心は開き直っていた。
 そんな啓介の心を見透かしているのか、横尾はこちらに来るようにと手招きをすると部屋の奥に進んでいった。
 その部屋は奥に進んでいくとその様相を変えていった。無期質的なそれが、次第に生物的な姿に変わっていったのだ。血管のように脈打つパイプが縦横に走り、その壁には粘液のようなものがへばりついている。
「ここは?…」
 剣を持つ手に力を込めながら啓介は言った、いつでも不測の事態に対応できる姿勢だ。
「リリスの子宮の中だ」
「そんなバカな」
 啓介には横尾の言葉が信じられなかった。先ほど見たリリスは確かに大きかったが、これほどの空間をうちに秘めてしまえるほどの大きさではなかった。
「本当なんだ。ここは彼女の体の一部なんだ」
 横尾は周囲を手で示すようにして言った。
「ただ、どんな方法でつながっているかは、分からんけどね」
 やがてその部屋は唐突に終わる。壁に行き着いたのだ。
 そして、そこでは何もない空間から全裸の美鈴に似た存在が生まれていた。
「リリン…」
「そう、リリンはここで生まれている。そして『紅い菊』も然りだ」
 横尾は息をのむ啓介にお構いなしに続けていく。
「『紅い菊』はある時不意に生まれてくる翼を持たないリリンだ。俺たちはそれを見つけたら人間として育てる。やがて『紅い菊』の中に人間の人格が生まれる」
「それが美鈴だというんですか?」
「そうだ。あれは『紅い菊』の中に生まれた人間の人格だ。つまり創り出されたものなんだ」
「創り出されたもの…」
 横尾の言葉は啓介の胸に突き刺さる。
「何故、人間として育てるのですか?」
 横尾の視線は宙をさまよい、そして啓介の視線に止まった。
「人として育てることで『紅い菊』が目覚める確率を下げる為さ。実際それはかなりの確率で成功している」
「そこから漏れてしまうこともあるわけですね?美鈴のように…」
「そうだ、残念ながら」
「では何故、僕の幼なじみとして育てたのですか?こんな関係になるなら僕は美鈴とは出会わなかった方が良かったのに…」
 啓介の瞳には怒りの炎が宿っていた。そう、啓介が知りたかったのはそのことだった。以前から感じていたのだが、二人がこのように育てられたのには何か理由があるはずだ。
 横尾は暫く考え込んでいたが、やがて口を開いた。
「それは、『紅い菊』を葬るには特別な感情が必要だからだよ」
「特別な感情?」
「愛、いや、恋といった方がいいんだろうな」
 そう言うと横尾はため息をついた。
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