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リリスの嘆き

第三章
覚醒

『紅い菊』と沙保里は互いの力を駆使しながら移動していた。その姿は結果を張っているおかげで誰にも見られることはない。だからなのだろうか、互いに相手の隙を伺う二人の顔は微かに嘲笑っているようにみえる。彼女たちはこの状況を楽しんでいるのだ。
「なに、あなたの力はこの程度なの?」
 宙を舞いながら沙保里が嘲る。
 沙保里のナイフのように薄い念が『紅い菊』を引き裂いていく。その度に美鈴の制服がちぎれていく。だが『紅い菊』はそれを気にも止めていない。何かを狙っているようにただ沙保里のされるがままになっている。
「所詮あなたは私には敵わないのよ。あの時とおんなじ」
 沙保里の笑いは止まらない。
『紅い菊』が初めて沙保里と接触した時、彼女はこの『もの』を仕留め損なっていた。それは彼女にとって唯一の屈辱的な出来事だった。そのことを彼女は忘れたことはない。その屈辱を晴らす機会が今訪れているのだ。
 この好機を逃すことはない。
 沙保里の年に切りつけられながら『紅い菊』はただ一点を見つめていた。
 この『もの』をここで倒してしまうのは容易いことだった。『紅い菊』もあれから経験を積んでいる。この程度の力の『もの』であればなんの苦労もいらない。しかし、彼女はそうしない。まるで何かを狙っているようだ。
 何かを狙っているのは『紅い菊』だけではなかった。
 沙保里もまた、狙っているものがあった。以前力を与えてくれた田宮という存在から彼女は「あること」を頼まれていたのだ。その準備は着々と進んでいる。私に出来ないことはないのだ。
 そのことは全てではないが『紅い菊』は気づいていた。
 この女と相まみえた時からこいつはどこかに導こうとしているのが彼女には分かった。その理由は分からなかったが、この企みに乗ってみるのも悪くはないと思っていた。所詮『もの』が考えることだ。良からぬことを考え散るのだろう。しかし、この女と自分の力では勝敗は明白だ。いつでもこの女の企みを弾き返すことが出来る。
 その後でこの女を屠ってやればいいのだ。
 絶望した『もの』ほど美味なものはない。
『紅い菊』は密かに笑った。
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