踏みにじられた生命
第三章
接触
昼下がり、食事が終わった生徒達はそれぞれ思い思いの時間を過ごしていた。校庭や屋上に出ている者、教室の中で仲間達と話し込んでいる者などそれぞれが自由な時間を楽しんでいた。
そんな中で野川明美と飯田美佳の二人は教室の片隅で声を潜めて話し合っていた。
既に今朝、伊本彩花のが殺された遺体が見つかったということはクラスの全員に伝えられていた。彼女達はその事実に脅えていた。更に言えば、二人とも首を吊られた状態で発見されたことに恐怖を感じていた。
「ねえ、なんで二人が殺されたのよ」
明美が脅えた声で言った。
「そんなこと私に判るわけないでしょ。でも…」
「でも?」
「私達、狙われているんじゃないかしら…」
美佳がそう言ったとき、二人はあることに気づき、言葉を失った。体に水をかけられたように冷たい汗が肌を伝い、震えが強くなった。
「もしかすると吉田沙保里のことで狙われているんじゃないかしら」
「よしてよ美佳。『あのこと』は自殺って言うことになったじゃない。それに虐めのことも学校が揉み消したんだし、誰にもばれちゃいないわよ。『あのこと』が自殺じゃないってことは…」
明美は脅えたままでそう言った。
だが二人は沙保里の日記の内容を知らなかった。日記の内容から沙保里の自殺に疑問を持っている人間がいることは知らなかった。すでに殺された二人を含めて彼女達を憎んでいる者がいることに気づいていなかった。
彼女達の恐怖は、その方向を変えていった。
「明美、私達呪われているんじゃないかしら?」
「呪われている?まさか…」
「そうよ、吉田沙保里に呪われているのよ。きっと…」
二人の恐怖は頂点に達した。
悲鳴にならない悲鳴がお互いの耳に張り付き、離れなかった。悲鳴が悲鳴を呼び最後には二人とも叫んでいた。
教室の空気が一瞬、凍り付いた。そこにいた全ての生徒の視線が明美と美佳に集まった。二人はその視線の痛さに耐えきれずに教室を出て行った。廊下に出た途端、二人は教室内と同じ視線が集まってくるのを肌で感じた。どうやら先ほどの悲鳴は教室の外まで聞こえていたらしい。集まった視線が二人の心の中を見透かし、隠していることを引きずり出そうとしていると彼女達は感じた。
それが更に恐怖を大きくしていった。
二人は凍り付いたようにその場に立ち尽くした。その時、明美は頭の中に自分を呼ぶ声を聞いた。
その声は小さく微かなものであったが言葉ははっきりと感じることが出来た。
「誰?」
不意に擦れた声でそう言った明美に美佳は不可解なものを感じた。
「誰なの?私を呼ぶのは…」
明美は震える声でそう言いながら惚けたように歩き出した。その視線は定まっていない。足取りは次第に速くなっていく。明美の顔の恐怖が更に大きくなっていく。
「明美、どうしたの?」
明美の行動に異様なものを感じて美佳は彼女の後を追った。だが先を行く明美は既に走り出していた。その速度は次第に速度を上げていく。それを追う美佳の足も限界に近づいていく。ついに美佳の足は限界を超えた。階段を駆け下りる明美の姿を逃してしまい、美佳は階段の踊り場まで転げ落ちてしまった。 意識が遠くなっていくのを美佳は感じた。
明美の速度は更に増していく。階段を下りきり、廊下を走り、靴も履き替えずに外に出てもその速度を下げることはなかった。既に彼女の限界は超えていた。体の動きに呼吸が着いていけず、次第に息をすることが出来なくなっていく。
それは彼女の意志ではなかった。まるで誰かが強い力で彼女を引き込もうとしているようだった。
助けを求めようとしても呼吸が出来ず声にならなかった。それでも明美は助けを求めようとした。
速度は更に上がっていく。明美はその状態で体育館の裏手に向かう。
そこで明美の姿は空間に呑まれていくように消えていった。
そんな中で野川明美と飯田美佳の二人は教室の片隅で声を潜めて話し合っていた。
既に今朝、伊本彩花のが殺された遺体が見つかったということはクラスの全員に伝えられていた。彼女達はその事実に脅えていた。更に言えば、二人とも首を吊られた状態で発見されたことに恐怖を感じていた。
「ねえ、なんで二人が殺されたのよ」
明美が脅えた声で言った。
「そんなこと私に判るわけないでしょ。でも…」
「でも?」
「私達、狙われているんじゃないかしら…」
美佳がそう言ったとき、二人はあることに気づき、言葉を失った。体に水をかけられたように冷たい汗が肌を伝い、震えが強くなった。
「もしかすると吉田沙保里のことで狙われているんじゃないかしら」
「よしてよ美佳。『あのこと』は自殺って言うことになったじゃない。それに虐めのことも学校が揉み消したんだし、誰にもばれちゃいないわよ。『あのこと』が自殺じゃないってことは…」
明美は脅えたままでそう言った。
だが二人は沙保里の日記の内容を知らなかった。日記の内容から沙保里の自殺に疑問を持っている人間がいることは知らなかった。すでに殺された二人を含めて彼女達を憎んでいる者がいることに気づいていなかった。
彼女達の恐怖は、その方向を変えていった。
「明美、私達呪われているんじゃないかしら?」
「呪われている?まさか…」
「そうよ、吉田沙保里に呪われているのよ。きっと…」
二人の恐怖は頂点に達した。
悲鳴にならない悲鳴がお互いの耳に張り付き、離れなかった。悲鳴が悲鳴を呼び最後には二人とも叫んでいた。
教室の空気が一瞬、凍り付いた。そこにいた全ての生徒の視線が明美と美佳に集まった。二人はその視線の痛さに耐えきれずに教室を出て行った。廊下に出た途端、二人は教室内と同じ視線が集まってくるのを肌で感じた。どうやら先ほどの悲鳴は教室の外まで聞こえていたらしい。集まった視線が二人の心の中を見透かし、隠していることを引きずり出そうとしていると彼女達は感じた。
それが更に恐怖を大きくしていった。
二人は凍り付いたようにその場に立ち尽くした。その時、明美は頭の中に自分を呼ぶ声を聞いた。
その声は小さく微かなものであったが言葉ははっきりと感じることが出来た。
「誰?」
不意に擦れた声でそう言った明美に美佳は不可解なものを感じた。
「誰なの?私を呼ぶのは…」
明美は震える声でそう言いながら惚けたように歩き出した。その視線は定まっていない。足取りは次第に速くなっていく。明美の顔の恐怖が更に大きくなっていく。
「明美、どうしたの?」
明美の行動に異様なものを感じて美佳は彼女の後を追った。だが先を行く明美は既に走り出していた。その速度は次第に速度を上げていく。それを追う美佳の足も限界に近づいていく。ついに美佳の足は限界を超えた。階段を駆け下りる明美の姿を逃してしまい、美佳は階段の踊り場まで転げ落ちてしまった。 意識が遠くなっていくのを美佳は感じた。
明美の速度は更に増していく。階段を下りきり、廊下を走り、靴も履き替えずに外に出てもその速度を下げることはなかった。既に彼女の限界は超えていた。体の動きに呼吸が着いていけず、次第に息をすることが出来なくなっていく。
それは彼女の意志ではなかった。まるで誰かが強い力で彼女を引き込もうとしているようだった。
助けを求めようとしても呼吸が出来ず声にならなかった。それでも明美は助けを求めようとした。
速度は更に上がっていく。明美はその状態で体育館の裏手に向かう。
そこで明美の姿は空間に呑まれていくように消えていった。
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