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踏みにじられた生命

第四章
追跡

 小島は再び吉田家の居間にいた。
 目の前には依然と同じく真人が座っていたが美子はそこにはいなかった。具合が良くないので自室で寝込んでしまったそうだ。
「奥さん、大分辛そうでしたね」
 小島は真人に気遣っているところをワザと見せた。二人が何時から何処にどれだけの時間いたのかを探り出そうとしているのだ。
「ええ、あまりよくありません。何しろ少しでも私が目を離すと手首を切ってしまいますので…」
「やはり娘さんのことが?」
「よほど堪えているのでしょう。それ以来私は妻の傍から離れられません。私はそれで会社を辞めました。今は貯金を切り崩して暮らしています」
 痛ましい話しだ、小島は声に出さずに口にした。
「それでは今日も」
「はい、少し目を離した途端、切ってしまいましたので急いで病院に向かいました」
「それは何時くらいでしょう?」
「午後一時くらいでした」
「病院はどちらに」
「市民病院です。そこの外科にお世話になりました」
 午後一時くらいということは小島達が犯人と接触した頃だ。場合によっては小島の推理が覆ってしまう。
 小島は吉田家を辞すと急いで携帯電話で恵を呼び出した。彼女は今、そこにいるはずなのだ。

 鞄の中の携帯電話が突然大きな音をたてた。病室内にいる全ての視線が恵の方に集まった。
「済みません、病院の中なのに」
 恵はそう言って慌てて病室を出て通話が許されているエレベーターホールに向かった。
 携帯電話を鞄から取りだし、ディスプレイの表示を見るとその電話は小島から掛かってきたものだった。
「はい、結城」
「おぅ、嬢ちゃんか、一つ頼みたいことがあるんだが」
 小島の声は相変わらず馴れ馴れしい。
「何ですか?頼みたい事って」
 恵は不機嫌気味に応える。
「一寸外科の外来に行って一時頃吉田夫妻が来ていなかったか確認してくれないか?」
「アリバイの裏付けですか?」
「まぁそんなところだ。」
 それだけいうと電話は突然切られてしまった。小島はいつもこうだ。自分の言いたいことだけ言うと相手のことはお構いなしだ。だがいつの間にかそれに慣れてしまった自分に恵は呆れてしまっていた。
 それでも仕事はしなければならない。
 恵は小島の指示通り外科外来の窓口に向かった。

 恵からの報告は程なく届いた。
 市民病院の医師の話は真人の行ったことを裏付けていた。
 アリバイが成立したのだ。
 小島は自分が暴走しかけていたことを思い知らされた。
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