踏みにじられた生命
第四章
贖罪
「お願い、もう、やめて…」
跪き、震えている美佳は力なく懇願した。
自分達は一体何をしてきたのだろうか。
人を玩具のように扱い、楽しんできた。
それを受けてきた相手のイメージを直接心に送り込まれ恐怖といたたまれない思いが美佳の心に広がっていく。
私達は沙保里を踏みにじってきたのだ。
迫り来る恐怖の中で美佳はやっとその事に気づいた。
だが、それはもう遅かった。
目の前の沙保里は美佳を決して緩そうとはしていなかった。
彼女の目にかつての美佳が持っていた残忍な光があった。
「どうして?これからが楽しい思い出じゃない」
沙保里の目が冷たく笑った。
「そうでしょう、私達の最後のゲーム」
沙保里の最後のイメージが送り込まれた。
放課後の体育館裏、美佳達四人は沙保里を取り囲んでいる。彼女達の上を一本の太い木の枝が横切っていて、そこから一端に輪を作られたロープが下がっていた。
「さあ、その椅子に上ってロープを首に懸けな」
響子が跪いている沙保里の腹を蹴った。一瞬息が出来なくなった沙保里は蹴られたところを抑えて呻いた。彼女は震えていた。
「昨日、私達の言ったことが出来なかっただろう」
彩花も響子に続いて沙保里の体を蹴り上げる。
彼女達は昨日の万引きが失敗したことを言っているのだ。
「責任、取ってもらわなくちゃね」
美佳が続いて言う。
「早く上んなよ」
明美が笑う。
「やめて、もう許して…」
沙保里の擦れた声が訴えた。
「駄目だよ、あのロープに首を通さなければ許さない」
誰かの声が聞こえてくる。沙保里はもう逃れる術がないことを悟って、立ち上がった。足の震えを抑えながらロープの下に置かれた椅子に上り、ロープの中に首を入れた。
その時、誰かが椅子を蹴った。
沙保里の足下を支えていたものが取り払われ、引力が思い切り彼女の体を引き下ろした。
一瞬、彼女の呼吸が止まり、目の前が暗くなった。
「やべ、どうしよう」
四人が狼狽える。彼女達の計算では、枝が折れて沙保里は地面に落ちる筈だった。だが、現実は違っていた。木の枝はしっかりと沙保里の体を受け止めていた。
「に、逃げようよ」
だらりとして木の枝からぶら下がっている沙保里を置いて四人はその場から逃げ去った。
「もう、許して…。お願いだから…」
嗚咽の中、美佳は必死に懇願した。
「どうして?楽しかったんでしょう。私を踏みにじって…」
跪いている美佳の顔を覗き込んで、沙保里は「ククククッ」と咽を鳴らした。
彼女の冷たい瞳を見て美佳の心は凍てついた。
「許して、ですって?あなたたちはあの時、私を許そうとはしなかったじゃない?」
美佳の呼吸が荒くなる。涙が、鼻水が、彼女の顔を伝い、落ちる。
沙保里は美佳の後ろに回り込み、彼女の耳に唇を近づける。
「苦しかったわよ、あの時。でもそんなことは一瞬で終わる…」
沙保里は悪意のこもった声で囁く。
「ごめんなさい、私が悪かった。許して、お願いだから…」
美佳の声は悪意のこもった部屋の中に吸いまれ、消えていく。
沙保里は立ち上がり再び美佳を見下ろした。
「許してあげても良いわよ。あなたの生命をくれるのなら…」
抑揚のない沙保里の声が美佳を更に恐れさせる。
その時、机の上に置かれた携帯電話が鳴り、受信メールのメッセージを表示した。
『私は殺された。
だから、おまえを殺す。』
その時、一瞬、美佳を抑えていた力が消えた。このチャンスを逃してはいけない。部屋を出なければ…。
美佳は部屋の扉へと走り、南京錠を外そうとする。けれども登録したナンバーが思い出せない。そんな鍵が一つではなく何個も取り付けられている。もう逃げられない。どうしてこんなことをしたのだろう…。
美佳の心を絶望が覆い被さった。
沙保里はそれを見逃さなかった。強い精神力で美佳の体を鷲掴みにして、思い切り窓の方に投げつける。
跪き、震えている美佳は力なく懇願した。
自分達は一体何をしてきたのだろうか。
人を玩具のように扱い、楽しんできた。
それを受けてきた相手のイメージを直接心に送り込まれ恐怖といたたまれない思いが美佳の心に広がっていく。
私達は沙保里を踏みにじってきたのだ。
迫り来る恐怖の中で美佳はやっとその事に気づいた。
だが、それはもう遅かった。
目の前の沙保里は美佳を決して緩そうとはしていなかった。
彼女の目にかつての美佳が持っていた残忍な光があった。
「どうして?これからが楽しい思い出じゃない」
沙保里の目が冷たく笑った。
「そうでしょう、私達の最後のゲーム」
沙保里の最後のイメージが送り込まれた。
放課後の体育館裏、美佳達四人は沙保里を取り囲んでいる。彼女達の上を一本の太い木の枝が横切っていて、そこから一端に輪を作られたロープが下がっていた。
「さあ、その椅子に上ってロープを首に懸けな」
響子が跪いている沙保里の腹を蹴った。一瞬息が出来なくなった沙保里は蹴られたところを抑えて呻いた。彼女は震えていた。
「昨日、私達の言ったことが出来なかっただろう」
彩花も響子に続いて沙保里の体を蹴り上げる。
彼女達は昨日の万引きが失敗したことを言っているのだ。
「責任、取ってもらわなくちゃね」
美佳が続いて言う。
「早く上んなよ」
明美が笑う。
「やめて、もう許して…」
沙保里の擦れた声が訴えた。
「駄目だよ、あのロープに首を通さなければ許さない」
誰かの声が聞こえてくる。沙保里はもう逃れる術がないことを悟って、立ち上がった。足の震えを抑えながらロープの下に置かれた椅子に上り、ロープの中に首を入れた。
その時、誰かが椅子を蹴った。
沙保里の足下を支えていたものが取り払われ、引力が思い切り彼女の体を引き下ろした。
一瞬、彼女の呼吸が止まり、目の前が暗くなった。
「やべ、どうしよう」
四人が狼狽える。彼女達の計算では、枝が折れて沙保里は地面に落ちる筈だった。だが、現実は違っていた。木の枝はしっかりと沙保里の体を受け止めていた。
「に、逃げようよ」
だらりとして木の枝からぶら下がっている沙保里を置いて四人はその場から逃げ去った。
「もう、許して…。お願いだから…」
嗚咽の中、美佳は必死に懇願した。
「どうして?楽しかったんでしょう。私を踏みにじって…」
跪いている美佳の顔を覗き込んで、沙保里は「ククククッ」と咽を鳴らした。
彼女の冷たい瞳を見て美佳の心は凍てついた。
「許して、ですって?あなたたちはあの時、私を許そうとはしなかったじゃない?」
美佳の呼吸が荒くなる。涙が、鼻水が、彼女の顔を伝い、落ちる。
沙保里は美佳の後ろに回り込み、彼女の耳に唇を近づける。
「苦しかったわよ、あの時。でもそんなことは一瞬で終わる…」
沙保里は悪意のこもった声で囁く。
「ごめんなさい、私が悪かった。許して、お願いだから…」
美佳の声は悪意のこもった部屋の中に吸いまれ、消えていく。
沙保里は立ち上がり再び美佳を見下ろした。
「許してあげても良いわよ。あなたの生命をくれるのなら…」
抑揚のない沙保里の声が美佳を更に恐れさせる。
その時、机の上に置かれた携帯電話が鳴り、受信メールのメッセージを表示した。
『私は殺された。
だから、おまえを殺す。』
その時、一瞬、美佳を抑えていた力が消えた。このチャンスを逃してはいけない。部屋を出なければ…。
美佳は部屋の扉へと走り、南京錠を外そうとする。けれども登録したナンバーが思い出せない。そんな鍵が一つではなく何個も取り付けられている。もう逃げられない。どうしてこんなことをしたのだろう…。
美佳の心を絶望が覆い被さった。
沙保里はそれを見逃さなかった。強い精神力で美佳の体を鷲掴みにして、思い切り窓の方に投げつける。
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